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リアルな君・中編

「かぐらって、男だったんだー!ずっと女の子かと思ってたよー」 「だよねー!男だし、超イケメン!びっくりしたーー!」 爽やかなイケメンの登場で今まで以上にはしゃぐ女性陣。 「や、そんなことないよ。…てかミケ以外、誰が誰なの?」 「…自分はグランっす」 「あ、やっぱりそうなんだ。グランはまんまだねー」 「私はガッチャンです。ガキさんて呼んでください」 「んで、あたしがやまとんねー!やー…しかしびっくりだなー」 かぐらの両隣を女性陣が陣取って、目的地のカラオケまで歩き出す。 (ホントにびっくりだよ…) オレはかぐらならもしブサイクだったとしても、絶対心変わりはしないと思ってたんだ。 そんな下心満載の決意で今日のオフ会に臨んだというのに。 (よりにもよって男だなんて…) オレのこのかぐらへ行き場のないの想いは、いったいどうすればいいんだ。 「…ミケさん行きますよ?」 あまり足が前に進まないオレは、なんでかグランに腰に手を添えられながら、なんとか店まで歩いた。 店についても相変わらず、女性陣とかぐらを中心に盛り上がっている。お昼時なこともあって、まずはカラオケよりも食事しながら話に花を咲かせた。 「ねー!かぐらって、なんでHNかぐらにしたの?アバも可愛いし…もしやネカマ狙ってた?」 「違うよー、本名が神楽坂っていうんだ。だから、かぐら。あのアバターもちゃんと性別男だし」 「そうなんだー!私も名字新垣だから、昔のあだ名のガッチャンにしたんだー。でもかぐらはホント騙されたよねー。ミケとか超ショック受けたんじゃない?絶対女の子と思ってたでしょ?」 「……ゴフっ」 突然話を振られ、思わずむせる。食べてたたらこスパゲティーが鼻から出るかと思った。 「っちょっとミケ―!大丈夫ー?」とやまとがケラケラ笑う。 「ミケさん、大丈夫ですか?」 グランはたくましい手でオレの背中をさする。グランは口数が少ない割にスキンシップが多いようだ。 「だ…いじょうぶ…」 「…オレも正直、かぐらさんは女性だと思ってました。やまとんさんが女なことよりビックリです」 相変わらずの真面目な口調でグランが言い、やまとが「まだ言うかー」と応戦する。 「…そう思われてるのかなーって思う時はあったんだけど、面と向かって言われなかったからワザワザ言わなかったんだ。でもまさか皆にそう思われてたなんてなー…なんかごめん」 別にあえて騙ししてたわけではないのに、かぐらはオレの方を見て申し訳なさそうに謝った。 (謝られたら…なんか余計に失恋した気分だ) 30分前までのドキドキは何のその。オレは今人生のどん底に突き落とされた気分だった。 オレの悲しみとは反比例して、女性陣は「謝らないでよー、こういうサプライズはむしろウェルカムだから」とやたらハイテンションだ。 ご飯を食べ終わって、おつまみやお菓子をつつきながらみんなで歌を歌う。 女性陣とかぐらは流行りの曲を次々と歌っていた。正直流行りものはサビしか知らなかったが、3人はカラオケに行き慣れているのかやたら上手かった。 オレは流行りの曲は知らないから、カラオケのランキングを見てみんな知ってそうな無難な曲を入れた。 グランは真面目そうな顔のままアニソンを歌う。上手くはないが真顔で大声で歌うその姿が、何とも言えなく場を盛り上げる。 男も女も、オレ以外は皆美形で、面白くていい人で。 オフ会は盛り上がらないこともあると聞いていたから、オフ会に当たりはずれがあるとすれば、このオフ会はきっと当たりになるに違いない。 …かぐらに会いに来たオレ以外にとっては。 かぐらは声までイケメンで、流行りの歌をかっこよく決める。 女性陣はキャッキャしているが、オレは曲を聴くたびにかぐらが男だと思い知らされるような気分で、本当に居たたまれなかった。 表面上は一応リズムにのっていたが、オレの落ち込んでるオーラは完全にだだ漏れだったのかもしれない。 時々グランから背中をポンポンされたし、女性陣に挟まれているかぐらからやたら視線を感じたが、オレはどうしてもかぐらを見る気にはなれなかった。 かぐらと席が遠くてほとんど話さずに済んだことが、何よりの救いだった。 「お疲れさまー」 「じゃあ、またゲームで!」 「お疲れさまでしたー」 カラオケを8時間くらい堪能した後、飲みにでも行こうかという話になったが、グランが未成年だとわかり今回はこれで解散することになった。 女性陣はこの後2人で漫喫へ行き一緒にMSをするそうだ。 「オレんち田舎で、いくつか乗り継がなきゃいけないいんで急ぎます!今日はありがとうございました!」 「またねー」 「またなー」 みんな次々に散っていき、まさかのかぐらと2人きり。 「ミケはどっち方面の電車?」 「…かぐらは?」 「オレは武蔵野方面なんだけど…」 「…そっかオレちょっとこっちに寄るとこあるから、またな」 まさかの同じ方面だったがとても一緒に帰る気分にはなれず、1人にさせてほしくて挨拶も早々にかぐらから離れ、人ごみに紛れる。 ずっと会いたかったかぐらが、男だった。 同じ失恋をするにしても、女のかぐらに告白して振られたほうが何倍マシか。 しかもオレが勝手に思い込んで、期待してただけなんて… 「はぁー…」 何と言い表していいかわからない今の感情に、長い溜息とともに目に涙が浮かぶ。 「ミケ、待って!」 人ごみの中から声が聞こえた。 振り返るよりも早く、グイっと右腕を引かれる。 「…ミケ。オレ、ミケに会いに来たのに全然話せてない。ミケの用事済んでからでいいからもうちょっと話せないかな」 追いかけてきたのはかぐらだった。 眉毛を下げたその顔はなんだか情けないが、情けない顔でもイケメンは様になるようだ。 「……」 「…お願い」 返事をできないでいるオレに、俯きながらもう一度お願いをするその手は、心なしか少し震えているようにも見えた。 「…うん。わかった」 オレはかぐらを女だと思って恋してたけど、かぐらはオレを男とわかってたのだからオレを親友のように思ってくれてたのかもしれない。 …だとしたら今日のオレの態度は、かぐらに対して酷すぎるものだったに違いない。 完全に非があるのは自分の方だ。 「…用事ってほど大したもんじゃないよ。ちょっと本屋に寄りたかっただけだから」 そう言うとかぐらはホっと笑顔になって、「じゃあまずは本屋へ行こう」とオレの隣を歩く。 人ごみのせいで並んで歩くと時々触れる互いの手に、何とも言えない気持ちになった。

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