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君の本音・後編 (完)
「おい、薬あったぞ。買い置きしといてよかったー。オレんち来る前にせめて病院行ってから来いよなー…オレこれからバイトだけど、ベッド使っていいからとにかく寝てろよ」
「うん、ごめん…ありがと」
実家は遠すぎるし、帰る場所のないオレは、もう一度電車を乗り直して大学の友人宅へ転がり込んだ。
突然の「泊めてくれ」に友人の江藤は露骨に顔をしかめたが、熱があってもう動けそうにないことを伝えると、慌てて部屋へあげてくれた。
江藤は稜以外では1番仲がいいんだけど、それだけじゃなくて日頃から江藤は世話焼きなタイプだからきっと風邪のオレを見捨てまいと思ったから来させてもらったんだけど、
案の定、江藤は薬だけじゃなくておかゆやらゼリーやらスポーツドリンクやらタオルやら頭を冷やすものやら…とにかく色々オレが困らないように枕元に置いてってくれて、
最後に「何かあったらすぐ呼べよ。バイト中でも携帯そばに置いとくから」とまで言ってくれて部屋を後にした。
親以外に…てか親でさえここまで良くしてくれたことはないのに。
江藤に感謝しながらベッドに横になる。
そんなに感謝をしてても目を閉じて浮かぶのは、江藤ではなくてやっぱり稜の顔だった。
(…オレはいつから稜に嫌われてたんだろう)
そもそもオレが稜からの告白だと思っていたあの言葉は、そんな意味はなかったのかもしれない。
勝手に友達以上になってたつもりだったけど、別にキスとか恋人みたいなことはなんもなかったし…
一緒に住むことがオレにとっては同棲でも、稜からしたら一緒に住んでやってるだけのただの同居人か居候だったのかもしれない。
オレは初めて、自分のプラス思考を恥じた。
(…風邪が治ったら、あの家を出よう)
そう決心をして、やっと眠りについた。
翌朝目が覚めると、朝のおかゆを既に作り終えて横に控えていた江藤に「昨日休憩中に連絡したのに電源切れてるからビビったわ!」と怒鳴られた。
ごめん、と声にしようとしたがカスカスで声が出ず、熱を測ってみたら、なんと41度を超えていた。
江藤はこれはやばい、とわざわざタクシーを呼んで病院へ連れてってくれ、ただの風邪ではなくてインフルエンザだと判明。
だいぶへばってたけど、一応自力でご飯や水分を摂取できるということで、入院はせずに点滴をして薬をもらって江藤宅へ帰宅した。
インフルエンザだからうつるかもしれないのに、オレを家へ追い返したりせずに自分のベッドへ寝かしつけてくれる江藤は、神かと思った。
それから2日経って熱は完全になくなり、ようやく声も体も元気になった。
「江藤、本当に助かったわ。ありがとう」
「良いってことよ。困った時はお互い様だからな」
「うん。じゃあさ…次のアパート決まるまでもうちょっといてもいい?」
「はあっ?!」
「頼むよ、他に頼れる人いないんだよ。江藤様~」
お願いしますーと頭を下げ続けると、「…早く見つけろよ」と渋々ながらもOKしてくれた。江藤は本当に面倒見がよすぎる。
そうと決まれば、と早速オレはアパートへ荷物を取りに行くことにした。
熱が下がったとはいえまだウィルスを保有してるかもしれないので、電車には乗らずになるべく人通りの少ない道を歩いて通る。
田舎とはちがって東京の2駅分の距離は短くて全然歩ける距離で助かったが、病み上がりにはちょっと疲れた。
「……ふぅ」
多分この時間稜はアパートにいないはずだけど、今日が最後になるかもしれないと思うと、感慨深い。
気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸をして鍵を開けた。
ドタドタドタバタ!
この間と同じような、慌て足音。
どうやら稜はアパートにいたらしい。
そう思ってる間に稜はすぐに玄関に顔を見せた。
「…葵、お前…」
久しぶりに見る稜の顔は、いつものように眉が寄っていて少し不機嫌そうだ。
「あ、ごめん。稜いないと思ったんだけど…荷物取ったらすぐ出てくから」
「…は?何?」
「稜はこれから出かけるの?行ってらっしゃい」
「…は?出かけねーよ」
「?そうなの?」
じゃあなんで玄関へ来たんだろうかと思いながら靴を脱いで自分の部屋へ向かうと、なんでか稜もついてきた。
「どうしたの?なんか用事あった?」
旅行かばんに沢山はいるように服をなるべく小さくたたんでつめながら、オレの部屋の入り口につっ立ったままの稜へ顔を向ける。
「…携帯、繋がんなかった」
ぽつり、と稜がつぶやく。
「あぁ、充電切れてたんだ。江藤の充電器オレのと合わなくって」
「江藤…」
「大学の友達。仲良いって前話したろ」
そう言いながら、そういえば稜はあんまりオレの友達の話を聞きたがらなかったから覚えてるわけもないかと思い至った。
「そいつんとこいたのか?」
「うん。もう少しいてもいいって言ってくれたから、引っ越し先見つかるまで世話んなってくる」
「は…?引っ越し先ってなんだよ。ここ出てく気か?」
稜が急に声を大きくした。
「え?うん。だって、稜オレがいるの嫌だろ?」
「…っオレが、いつそんなこと言ったんだよ!!」
急に稜が怒りだして、思わず服を詰めてた手も止まる。
「…だって、この間怒ってたじゃん。何で帰ってきたんだって」
そう言うと、稜は顔をしかめた。
この顔は、3年前に見たことがある。怒ってるというよりも、泣きそうなあの顔だ。
「あれは…そういう意味じゃない。遅くなるって言ってたくせに、早く帰ってきたから…」
じゃあどういう意味なのか。
オレが遅く帰ってきたら稜は満足だったのだろうか。
なんて返事をしていいのか分からずに黙っていると、再び稜が口を開いた。
「…お前、あの日が何の日か忘れてたろ」
「あの日?」
言われた意味が分からずに首を傾げると
「あの日はお前の誕生日だったろ」と呟いた。
「あ、そうだっけ…?」
言われてみればそうだった。
自分の誕生日なんて、実家にいた頃は母がケーキを買ってくるくらいでそんなに重要視したことがないからすっかり忘れていた。
「…お前の誕生日だから、料理でも作ってやろうと思って準備しようとしたのに、お前が早く帰ってくるから何もできてなくて…だから慌てただけだ。…お前がインフルエンザなんて知らなかった」
稜がオレの誕生日を祝ってくれるなんて…と驚いたが、稜の最後の言葉にも引っかかった。
「…稜、何でオレがインフルエンザだったって知ってんの?」
そう言うと稜は俯いてしまった。
「…お前が次の日になっても帰ってこないし、電話も通じないから…だから夜はまたバイトしてんじゃないかと思ってバイト先に行ったんだ。そしたらインフルエンザで暫く休むって…あの日もすごい熱があったって言われた」
俯いてしゃべり続ける稜の顔はあまり見えないが、声が少し震えている。
「うん。あの後41度も出たんだ。びっくりしたよ。熱ってあんなに上がるもんなんだねー」
「そんなにっ!…熱あるなんて知ってたら追い出したりしなかった。……そうじゃない。熱なくても、あんなんすべきじゃなかった…ごめん」
稜が、謝った。
十何年の付き合いだけど、稜がオレに謝るなんて、今まで見たことない。
あまりの衝撃にオレは何も返せずに固まっていると、稜はそれを拒絶されたととったのか
目に溜めていた涙を、ほろりと零した。
「ごめん…オレが悪かった。悪かったから、出てくなんて言うな…」
「え、や、出てかない!出てかないから!…だから泣くなよ」
慌てて稜のそばへ寄り背中をさすると、オレが出てかないようになのか、ギュッと服の裾を掴まれる。
泣いている稜も、謝る稜にもなれないオレは、どうしていいかわからずにただただ背中をさすり続けた。
「……ねぇ、稜」
「…何」
「オレ達って、さ。幼馴染だけど、友達なの?親友なの?…恋人なの?」
「……なんだ今更」
「だって、オレは稜に好きって言ったけど、稜には1度も言われたことないし…」
「……」
「……」
「……恋人じゃねえ奴の誕生日なんか誰が祝うか」
「…そっか」
なかなか素直になれない君の、最大限の返事。
その言葉を聞けただけで、オレはなんだって頑張れそうな気がした。
「…ねぇ、稜。もしさ、来年とかもオレの誕生日祝ってくれるならさ。誕生日プレゼントに稜から好きって言って欲しい」
「……は?アホかお前」
「だって稜、そういうの全然言ってくれないじゃん。…オレ、今回のことなくても稜に嫌われるんじゃないか悩んだりしてんだ。1年に1回くらいなら言ってくれてもいいじゃん」
オレがそう言うと、
「……オレがお前を嫌いになるわけないだろ」
と凄く小さな声でつぶやいた。
何という殺し文句。
いつも口の悪い君の本音はどこにあるのか難しい。
だけどたまに発する甘い言葉は、いつだってオレを掴んで離さない。
終 2015.1.25
(ツンツンツンツンツンツンツンデレ)
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