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恋人が可愛いので、オレの我慢が利かない

此処までの旅程は概ね計画通りだった。寧ろ、計画よりもスムーズに進んだと言っても過言ではない。 しかし、二人は休日の高速道路の混み具合を舐めていた。目的地に近づくにつれて車が詰まっていき、最終的には渋滞に巻き込まれた。 「……これは予想外だったわ」 「俺達、普段は地下鉄しか使わないしな」 焦っても仕様が無いのは分かるが、ここで足止めを食らうとアウトレットモールに到着する時間が遅くなる。つまり、ホテルに着く時間もその分遅くなり、健と気兼ねなく触れあう時間も少なくなる。 急く気持ちを抑えながら、賢太郎は安全運転を心がける。健は携帯をいじっていた。 「何見てんの」 「アウトレットモールの地図。結構広そう」 「へえ……」 賢太郎は随分気の抜けた反応をしてしまったが、健は気にしていないようだった。全部回るのは骨が折れそうだと考えていると、太腿に健の手が載せられる。健からちょっかいをかけられるとは思わず、賢太郎は飛び上がりそうになった。 「賢太郎、疲れてる?」 「それは大丈夫」 「そうか? 元気なさそうだったから。考え事?」 「……予定が全部後ろ倒しになるなって思っただけ」 賢太郎は連なる車の群れを見ながら答えた。ホテルで健とイチャイチャする時間が無くなるのが嫌だ、と正直に答えても微妙な空気になるのは分かっていた。健は観光したがっていたし、アウトレットモールに回る時間を短縮あるいは完全無視するという選択肢は存在しない。そもそも、そんなことをするなら態々車で出向いていない。賢太郎はそれ以降黙っていた。 健は控えめな笑い声をさせたあと、太腿に置いた手を賢太郎の頭に乗せて撫でつける。さっきから賢太郎の心臓は驚き通しだった。 「……なんとなく、考えてることは分かる。もし、早く俺に触りたいって思ってくれてるなら、すごく嬉しい」 健の声は、とても優しくて穏やかだった。その言葉を聞けて良かった。そうだよ、と賢太郎は言いたかった。 けれど、だったらどうして、とも言いたかった。 「……ずっと我慢してたからな」 それだけ絞り出して、賢太郎は健の手に心を委ねた。健の顔は見れない。 渋滞の列は少しずつ動き出して、目的地に着いたのは予定より一時間も後だった。

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