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何に動揺したのかわからないまま、孝弘はリュックに手を入れて水を取り出し、その底にカメラを見つけた。
わざわざ慕田峪まで行くなら持って行けと佐々木が貸してくれたのだが、孝弘はカメラを持ち歩く習慣がなく、すっかり忘れていた。
36枚撮りのフィルムだからなかなか撮り終わらないとぼやいていたので、1枚も撮って帰らなかったら怒られそうだ。
「高橋さん、せっかくだから写真撮る?」
「あ、カメラ持ってきたんだ。いいね、撮ろう」
祐樹もカメラを持ち歩くタイプではないらしく、それを見て嬉しそうにうなずいた。
長城を背景に交代で撮りあったあと、タイマー機能を使って二人で写ってみることにしたが、案外、角度や置き場所が難しい。
段差が大きいので、後ろに長城を入れようと思うと空中からの高さがちょうどいいのだが、そんな場所にカメラを固定できない。何枚か撮ってみたが失敗した気がする。
タイマーのタイミングも思っていたより遅くて合わせるのが難しい。
しばらくあれこれ試したあと、床の上にリュックを置いてその上にカメラを置き、少し階段を下がった位置にスタンバイしてみた。
並んで立つ二人の後ろに龍の体がくねっているような感じで長城が入る。
レンズを覗いてみた感じではなかなかよかったので、その位置で何枚か撮って撮影会は終了した。
「できたら見せて」
「焼き増しするよ。でもこれ友達のカメラで、まだフィルム撮り終わってないから、しばらく先になるかもしれないけど」
なんだかんだで10枚ほど撮ったようだ。どんな写真が撮れたか楽しみだと思い、そんなことを思う自分に戸惑った。どんな観光地に行っても写真を撮りたいと思ったことはないのに。
祐樹の笑顔を閉じ込めたいなどと思う自分にちょっと戸惑う。
「お腹空いたね。戻ってお昼食べに行こうよ」
祐樹がいったと同時に、ぐううっと孝弘の腹が大きく鳴った。
タイミング良すぎと祐樹の笑う声が高い空に響いた。
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