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 だから、人の気も知らないで。そんな無防備な顔をして。それともこれも計算された顔?   あの電話以来、そっと祐樹を観察していて気がついた。無邪気そうに笑う顔はいつもつけ入る隙がなく、プライベートに踏み込む会話はさりげなく質問で返される。  実はとてもポーカーフェイスのうまい人なんだと。何とか祐樹のガードを外したくて、でもそんな高等なテクニックを孝弘は持ち合わせていない。 「高橋さんが好きだ」  気づいたら、言葉がこぼれていた。  何も考えてないようでいて、あー、とうとう言っちゃったよと頭のどこかで冷静に思う。このタイミングでいうかなー、よく考えろよ。  そんなつっこみをしながら、それでもこのタイミングしかなかったような気もしてくる。 「うん、おれも上野くんが好きだよ」  祐樹はにっこり笑ってそう返してきた。  酔っぱらいの戯言だとさらりと受け流されたのだ。  腹が立つ。こっちはマジだ。 「本気で、好きだ」  強く言葉を重ねると祐樹は真意を探るように、かすかに眉を寄せて孝弘を見つめた。その視線を受け止めて、なお真っ直ぐに視線を返す。  緊張はしていたが、口は滑らかに動いた。 「あなたが好きなんだ。つき合いたいって思ってる」  孝弘の真剣な表情と声に、ようやく祐樹も冗談を言っているわけではないと理解したようだ。 「つき合うって、何言ってるの。おれ男だけど」  困惑の口調で、当然の断り文句を祐樹は口にした。  男だから対象外ってわけ? 「わかってる。でも高橋さんはちがうだろ」  それを聞いて初めて、祐樹は戸惑ったように瞬いた。 「どういう意味?」 「俺が男でも問題ないよね。俺じゃダメ?」  探るような目でじっと孝弘を見つめた祐樹が目線を外し、ふっとため息をついて、やはり返事はせずに別の質問をした。 「気づいてたのか。おれ、けっこう隠せてるほうだと思ってたんだけどな。なんでわかったの?」 「見ててわかったわけじゃなくて。ごめんなさい、電話聞こえちゃって。本をもらいに行ったときに」  立ち聞きしてすみませんと謝ると、ああとつぶやき、今度は長々とため息をついた。 「それはもういいけど。聞いてたならわかるだろうけど、終わったことだし」 「べつに過去を詮索する気はないよ。以前、誰とつき合っていようと俺が好きなのは今の高橋さんだし」 「うん。気持ちはうれしい、ありがとう。……でも、ごめんね」  さきほどしなかった返事だった。  祐樹はそっけないくらいにあっさり断った。

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