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「別れ話がもつれたとか、そういうのじゃないんだ。おれは彼とつき合ってたわけじゃないし、彼もおれのことは……」  祐樹は言葉をとぎらせて、その先を探すような顔になり、見つからないのかゆるく首を振った。  孝弘は祐樹を刺激しないようそっとよこに移動して、寄り添うように座った。一瞬、体を揺らしたけれど、祐樹は何も言わない。  いいから話して、とささやいて髪をなでる。  昼のうちにシャワーを浴びたのか、シャンプーの香りがした。  祐樹はゆっくり息を吐いて、呟いた。 「この前、彼がおれに会いに北京まで来たのは、決着をつけるためだったっていうんだ」 「うん」  意味がわからなかったが、孝弘は続きをうながした。 「ちがうな、そこからの話じゃなくて……」  混乱したようにつぶやき、祐樹はこてんと頭を孝弘の肩にあずけた。しばらく黙って考えこみ、それから身を起こすともう一度、口を開いた。 「おれが一番最初に、彼と出会ったのは、中学生のときなんだ」  思いがけない祐樹の言葉に、そんな古いつき合いだったのかと驚く。  同僚と聞いていたから、てっきり会社に入ってからの知り合いかと思っていた。 「彼は同じ中高一貫校の先輩で、おれが中学に入学した時、彼は高2だった」  そんな長いつき合いのある相手と聞いて、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなる。 「縦割り行事の多い学校だったから、学年が離れてても一緒になることがあって知り合った。といっても彼は当時、生徒会長で学年首席の有名人で、入学したばっかりのおれが近づけるような人じゃなかったけど、なにかと声かけてくれて助けてくれた」 「助けてくれた?」 「うん。中1のとき、まだ背も低くて顔も女の子みたいで、男子校の中ではいじりたい感じだったんだろうね。物がなくなったりとか、からかわれたりとかけっこうあったんだ」  入学当時の祐樹はクラスでいちばん小さくて女の子よりかわいいと評判だった。  祐樹自身はそんなことは言われ慣れていて、いちいち反応したりはしなかったのだが、それをからかうクラスメイトがいたのだ。  いじめというほど深刻ではないが、からかいよりちょっと行き過ぎた感じだった。  祐樹は兄三人の家庭に育って、かわいい容姿に反して気が強かった。そしてそういうことに正面から反発したから、だんだんエスカレートしていったのだ。 「おれの学校は6月に体育祭があって、その練習の縦割りクラスで初めて話した。面倒見のいい人だったから、体操服とか上靴とかリコーダーとか探してるおれに気づいて一緒に探してくれたんだ。その後におれの教室まで来て、こいつ、俺のおきにだから手を出すなよってみんなの前で宣言して、守ってくれたんだ」 「それってつまり、彼がそのときから高橋さんを好きだったってこと?」 「ううん、そうじゃなくて、たんに小さい子がいじめられてるのがかわいそうだから、かばってくれたって話。高2なんて中1のおれからしたら、すごい大人に見えてたし、生徒会長なんてもう雲の上の人って感じで関わりたくないって感じだったな」

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