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第17話 世界の始まりと花嫁の行方

真音の鳴き声がして、僕は、目を覚ました。 僕は、急いで、脱ぎ捨てた服を拾い身に付けると、真音に駆け寄って抱き上げた。真音は、ひとしきり泣くと、泣きつかれて再び、眠ってしまった。僕は、真音を抱いて新崎だったものの方へと歩み寄った。そこには、新崎の肉体に根を絡ませた植物が枝を伸ばしていた。どんどん成長していくそれから逃れて、僕は、真音を抱いて小屋の外へと飛び出した。あっという間に、小屋も、緑に飲まれていった。やがて、成長を止めたそれは、大きな、美しい赤い花を咲かせていた。 新崎の命の花だった。 朝日の中に輝く、その花は、言葉に出せないくらい美しくて、僕は、止めどなく涙が溢れ出していた。 しばらくして、僕の近くの空間が揺らいで、征一郎と天音と奏が現れた。 「真弓」 「征一郎・・」 僕は、征一郎に抱き締められながらも、涙が止まらなかった。 この世界に溶け、拡散していった新崎の魂が世界を暖かく包み込んでいた。 征一郎は、僕と真音を抱いて、言った。 「奴を、救ってやったんだな、真弓」 「違うよ」 僕は涙を拭いて言った。 「彼が、この世界を救ったんだ」 そして。 かつて、マザと呼ばれた施設の中で、小さな奇跡が起こっていた。それは、世界各地から世界政府のもとへと届けられた。 「見たことのない、異種の生命体が産まれています」 研究者たちは、困惑していた。 性の表現体が異なる子供たちの誕生は、それからもしばらく続くこととなる。 世界が存続することの出来るだけの亜種が産まれたら、マザの施設は、封鎖されることになると征一郎は、言った。 こうして、死にかけていたこの世界は、救われた。 一人の孤独だった神によって。 彼は、愛を知り、世界を救った。 「もしかしたら、次に、彼が転生するのは、僕たちの子供としてかもしれないよ」 僕は、真音の3才の誕生日を祝うパーティでそっと征一郎に言った。征一郎は、笑って、僕に囁いた。 「それじゃ、早く、転生させてやらないと、な」 「そこ!また、こそこそ、なにかしてる。いやらしい」 奏が真音を抱いて、僕たちに向かって言った。 征一郎は、僕をぎゅっと抱き寄せて言った。 「こそこそしなければ、いいんだろう?」 「征一郎!」 征一郎は、皆の目の前で堂々と僕に口づけした。天音、奏、理事長が、ブーイングする中、征一郎は、僕を抱き上げ、その場を後にした。 僕は、征一郎に抱かれたまま、彼の首へと腕を回して、きいた。 「どこに、行くの?」 「さあ」 征一郎が微笑んだ。 「どこへでも。花嫁の望むところへ」 「じゃぁ」 僕は、頬を赤らめて征一郎へ囁く。 「どこか、二人きりになれるところへ」 「もちろん」 征一郎は、僕にキスして言った。 「喜んで」 それから、僕たちが、どこへ消えたのかは、誰にも内緒、だ。

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