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家族のはじまり
はらはらと、花弁のような雪が降っていた。
短く息を吐けば、白い足跡が生まれては消えていく。
手の平をそっと、見せるように翳してみれば。
刺すような冷たさが落ちてくる。
「……はぁ」
寒かった。寒い、寒い冬だった。
外灯の下にあるベンチ。そこで一人、座っていても別段やることなどなかった。強いて言えば、人を待っていた。それだけだ。
かといって、待っている間は何もすることがない。着の身着のままだったから、暇つぶしになるものさえなかった。
だから、ただ辺りを見渡していた。神々しく、そして騒がしいほど輝くネオンが、まるで化粧のように街を彩ってはいたけれど。
数分も眺めていれば、ただ眩いだけだった。
「まだかな」
ぼーっと、ただただ一人で待っている、その己の姿を、じろじろと好奇の目で見られることには、もう慣れた。今日はダッフルコートと、赤い手編みのマフラーを捲いているから、おそらく少女と間違われているのだろう。どっちつかずの顔と身体なのだ。間違えられても仕方がない。
それに、少女が一人、ベンチに座って特に何をするでもなくただ夜景を眺めているだけならば、自分でもなくとも注目されてしまうのは必須というものだ。
しかし、自分はれっきとした男性である、と。
舞い散る雪と同色の髪を持った少年は、頭の中で、異論を唱えていた。
自分の髪の色はどうしても人目を引いてしまう。だが、それが他人との区別をつけるための目印でもあった。
少年は、待っている。この髪の色を、目印としてやって来てくれる人のことを。
少年は、一人で……。
「すみませんっ!」
「ん……はい?」
「あの………………少しの間で、いいんです……」
―――――…
数分後。
「……」
「あ、おかえりなさい。悠壱さん」
「ほぎゃあっ、ほぎゃあっ」
「気のせいでしょうか。貴方のその手が抱いているものが、赤子のように見えるのですが」
「ああ、うん。ほら、悠壱さんが婚姻届を出してきている間にさ、もう待てな~い、って生まれちゃったんだよ」
「……」
「きゃっ、きゃっ」
これは、同性同士の結婚が法律上で認められている世界での、とある家族のお話。
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