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第1話:バルトロメオ1

 人は本来的に清らかなるものだ。  その在り方から外れることがあっても、それは一時のこと。生まれながらの悪人はいない。  そして善なる神の力が、この世界には満ちあふれている……。  独特のアーチを描く天窓からの光が、礼拝堂の闇の一部を照らし出していた。  少年は白く透き通る頬をその光にさらし、きゅっと目を閉じている。むき出しのひざは冷たい床に突き、両手の指を組んで祈りのポーズを続けていた。 「お前はいい子だ……」  頭上から声が降ってくる。その声は低く穏やかに聞こえるけれど、どこかうわずっていて、興奮を孕んでいるようにも思えた。 「……は、あぁ……」  声が乱れた吐息に変わる。  さっきから、弾力のある肉が少年の鼻筋に押しつけられている。ぐりぐりと擦りつけられるたび、そこに滑る感触が加わり、それが鼻筋から頬、口の脇へと移動していった。  少年は息を止め、唇を強く引き結ぶ。その時が近いのは分かっていた。  男の声が低く呻き、擦りつける動きが速くなる。 「……あ、ああっ……あっ!」  ドクンという鼓動が伝わってきて、次の瞬間、少年は顔に生温かい粘液の飛沫を受けた。粘液は重力に従い、ゆっくりと顎の方へ伝っていって……。  息を止めるのも限界で、少年は目を閉じたままパクパクと息をした。途端に生臭い匂いが鼻を突く。耐えられない不快感に叫びだしたくなる。 「……っ、ううっ……」  少年がのどを震わせると、大きな手のひらがゆっくりと髪を撫でてきた。 「泣くのはやめなさい。泣くようなことは何もない」  聞こえてくるその声は、笑っているようにも、戸惑っているようにも聞こえる。 「……仕方がないですね、これくらいで泣くようじゃ」  男の気配がすっと遠ざかった。  早くここから逃げ出して、顔にまとわりつく穢れを洗い流したい。けれども男の気配が完全に去るまで、少年はその場から動くことができなかった。  神の業火によってソドムとゴモラの街が滅ぼされたのは、そこで天使に対する暴行があったからだと、創世記十九章に記されている――。

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