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第1話
「拓巳ってマジで可愛いよな」
突然、男友達に真顔でそんなことを言われて、
柴田拓巳は「は?」と顔をしかめた。
「なんつーの、身長が小さいってのがまずポイント高ェじゃん。」
「なんのポイントだよ…」
「そんで、顔がほんっととにかく可愛いよな」
「そりゃドーモっ」
ふてくされたように頬杖をつき、窓の外を眺める拓巳に、「怒んなよ〜!」と笑い混じりの声がかかった。
(怒ってねーしっ、反応しづらいだけだしっ)
誰だって顔を褒められて悪い気はしないだろう。
可愛いって言われるのはイマイチ喜びづらいが。
「柴田くんって、可愛いね!」なんて女子に話しかけられることだってあるし、損はしてないはず。
ただ、可愛いって言われることに引っかかるようになってしまったのはー…
「よ、今日も小せぇな」
毎朝必ず、見下すように頭を撫で回してくる水瀬玲央のせいだ。
「レオ…お前ほんっと一言余計…」
「あ?悪ィ。今日も小せぇな」
「そっちが余計な一言なんだっつーの!」
周りの連中が「おはよー!レオ!」と話しかけるのには、「よ」と軽い挨拶を交わすだけなくせに
玲央はなにかと拓巳にちょっかいをかけてくる。
それが恒例行事にもなってたりもする。
「あ、やべ…世界史の宿題やってねぇ」
隣の席に座った玲央がそう呟くと、
「えー水瀬!アタシのノート見る?」なんてピンクの声が四方八方から飛んでくる。
「おー、わり。見せて」
そんな玲央のたった一言で、私が貸すからな?と女子同士がピリつくわけで。
(こいつ本当にモテるなぁ…)
身長183㎝
黒髪
片耳ピアス
この箇条書きの紹介文で想像つく通り、玲央はかなりイケメンでモテる。
チャラくはないが、話しやすいところもポイントが高い。
(確かに俺も女だったら絶対惚れてる…)
ふーっ、とため息をついて机に突っ伏すると
「タクミ」と、椅子を横からトンッと蹴られた。
「…ん?」
「お前もどーせ終わってねぇんだろ?」
自分のことを分かりきったような言い分だ。
でも、拓巳は満面の笑みを浮かべる
「俺さっきリョータに写させてもらったから終わってるし〜!」
そうドヤると、玲央は「じゃあそれを写させろ」と手を出してきた。
「やーだ!」
「お前のがいいの」
「…落書きできるからだろ!」
「正解。あと隣の席だから授業始まってからでもすぐ返せんだろ」
だから早く貸せ、と言う玲央に、拓巳はしぶしぶ自分のノートを差し出した。
「お前らって仲良いのか悪いのかわかんねーよな」
二人のやりとりを見る周りは大概口を揃えてそう言ってくる。
仲はきっと良い方だが、元々悪かった。
出会いが最悪だったからだ。
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