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第1話
怖い怖い怖い!!!
「はぁ、はぁ、はぁ、おにいさん、アルファ、でしょ?」
発情期のオメガ怖い!!!!
【創作BL】運命【オメガバース】
「って事があったんだよ」
「へぇ?発情したオメガに襲われたか。俺なら、お持ち帰りしちゃうかも」
「ちょ、マジで怖かったんだからな!!」
ぞわぞわと真崎は震えた。
あの、切羽詰まったような眼でも、獰猛で、はぁはぁとした息遣いとか……。
「うわっ、マジもん?そんなにやばかったんだ?」
「……お前も、同じ苦しみを味わえばいいのに」
普通、オメガのフェロモンに誘惑されることはあっても、基本的にはオメガに強い種であるアルファがオメガに押し倒されるなんてあるわけがない。
どういうわけか、真崎はその人のよさそうな雰囲気からか、度々襲われる事がある。
今回は特にひどかったようで、未だに真っ青でもうやだ、と呟いている。
「それで、その後どうなった訳?」
「警察呼んで、救急車でオメガは運ばれてった。俺は、被害者なのに相手の親族来たら責められるし、何なの?俺、何もしてない。手も出してない。俺がなにしたって言うんだ!!」
「……お前の精神強いなぁ」
「そりゃ、抑制剤も飲んでるし……俺はね、ベータの女の子と普通の結婚をして普通の幸せを手に入れたいの!」
みゅきーっ!!とジタバタ暴れる真崎。
あー、はいはい、と真崎の頭を撫でる結城。
「で?今度の土曜、合コン行く?」
「行かない!!」
結城は、真面目そうな見た目の真崎とは正反対の友達だ。
幼馴染と言うのもある。が、一緒に居て気楽だし同じアルファだからか、安心できる。
オメガが怖いのは、仕方がない。
何故か、群がってくるのだから。本当に希少種なのか?と言いたくなるくらい。
結城には、オメガのパートナーが居る。番だ。合コンは、メンバー集めを頼まれたらしい。何でも、その子と知り合って仲を取り持ってもらったらしい友達に、合コンのセッティングを頼まれたそうだ。
どちらにしろ、そう言った結城の友達とはあまり合わない性質の真崎は、合コンの話を断り続けている。
肉食系女子やオメガが端的に言えば、苦手なのだ真崎は。
「俺、もう次の授業あるから行くな」
そう言って、真崎は結城から逃れると、はぁ、とため息を吐いて教室を目指す。
幾つかの授業の内、この授業だけは誰ともかぶってなくて、毎回一人で授業を受けていた。
「隣、空いてるか?」
他の人は、大抵友達と来ているから、隣に誰かが座ったことは無かった。
だから、掛けられた声にとっさに反応することが出来ず、もう一度彼は聞いてきて、空いてます。とだけ答えられた。そうか、なら失礼する。と言って座った彼は、とてもイケメンで格好よかった。真崎は自分とは正反対だと感じる。
「あれっ、蜜葉もこの授業だったの?」
出入り口に近いこの席で、後ろから入って来た子が声を上げた。
少し派手目の女の子が後ろに居て驚く。
「あぁ、お前らも?」
「そうそう、この授業必修でさぁ」
「そうかよ、まっ、頑張れば?」
「ひどっ!あっ、じゃあこっち来て教えてよ」
「断る。テメェで頑張んな」
蜜葉のケチ、と言って女の子は去っていく。
それについて、ようやく静かになった場所にホッと安堵した。
そして、真崎は彼に隣に座ることを許したことを後悔した。
再びため息を吐いた真崎は、眼鏡をかけなおすと、自分には関係ないと目を閉じた。
「なぁ、ここの意味わかるか?」
授業が終わり、ノートとかを片付けていると、隣の彼から問われた。
とっさに辺りを見回して、自分を指す。
「……俺に聞いてるの?」
「お前以外に誰が居るんだ」
呆れた顔を隠そうともしない彼に、カラ笑いしか返せなかった。
と言うか、初対面の真崎に聞いてくる彼がすごいと思った。
「そこは……」
と、問われた所を説明しようとしてみるも、次の授業を受ける生徒が続々と入ってくる状況にあー、と真崎は頭を掻いた。
「この後、暇?」
「あぁ、この後の授業はもうない」
「じゃあ、ラウンジに行こうか。そこで教えてあげる」
サンキュ、と言った彼は真崎の後に付いてくる。
「俺、日積 蜜葉。お前は?」
「真崎。真崎 信忠」
「古風な名前だな」
「名前負けしてるけどね」
そう話しているうちに、ラウンジに付いた。
ノートを広げて、先ほどの授業の復讐を兼ねながら説明していく。
「……で、こうなるから結果がこれ」
「あぁ、なるほど。そういう意味だったのか。ありがとう、助かった」
二カッと笑って礼を述べてくる蜜葉に真崎は、いえいえと返す。
「俺でよければ、これぐらいはいつでも言って。俺だって分からないことはあるけどね」
そう言うと、真崎は席を立った。きっと、もう話すことは無いだろうと思いながら。
「はぁ!?あの、日積と話したの!?」
次の日、昨日の出来事を結城に言えば、とても驚かれてこっちがびっくりする。
「そんなに、有名な奴なのか?」
「有名って……あぁ、もう!!いや、でもこれはノブにとっても……いや、いや、いや、後が怖い……でもなぁ……」
「一体、何だっていうんだ?」
ブツブツと目の前で訳の分からない事を呟いている結城に真崎は首をかしげる。
「いや、うん!俺は何も知らなかった!そうしよう!」
「何がだよ?」
いきなり結論を出した結城に、呆れた声で真崎は言った。
全く、何が何だかわからない。
「もう、話すこともないだろうし、何でお前が慌ててる訳?」
「いや、うん。良いんだ、気にすんな!なっ!?」
結城の何時にない勢いに負けて、真崎はとりあえず、おっ、おう、と頷いた。
その直後、どんっと背中に衝撃が走った。
「よぉ、昨日ぶり。昨日は助かったわ」
と、背後から聞こえてきた声に、無性に叫びだしたくなった真崎。
まさか、昨日の今日で話しかけられるとは思ってもみなかった。
それに、今日はあの授業の無い日だから、余計に。
「これ、礼な」
と渡されたのは白い紙袋。
中には、3つほどのドーナツ。
んじゃ、とあわただしく去っていく日積。その姿を、何とか無事に見送ってため息を吐く。
あんなに派手な登場をしなくてもよいではないか。
「本当に日積と話してらぁ」
「何で俺が嘘つかなきゃいけないんだ!だいたい、嘘をついて何の得があるんだ俺に!!」
憤慨する真崎だったが、やはり日積の事が気になった。
「で?日積って何なの?」
「……とある企業の御曹司、の婚約者」
と、結城はげっそりとしながら言った。
「あいつ自身も、金持ちの出でさ。なんか、大学卒業したらすぐに結婚だって」
その時、結城の話を聞いて、真崎は良くある話だなぁ、とか可哀想だなぁとか他人事のように考えていた。
「……あの、日積、さん?」
「……」
無言が怖い。こんな事、在ったことなかった。
押し倒されるのは、いつもの事だったし、今は部屋の中で知らない人でもない。
それでも、どうしてこんな状況に陥っているのでしょうか?
あの後から、真崎は日積とそれなりに交流があった。
日積は真崎にとって、肩の力を入れなくても良い友人の位置にあったから。
それが、なぜ今こうなっている?
カチャカチャとした音が聞こえたと思えば、両腕をベルトで拘束された。
「おい、今なら冗談にしといてやるから、なっ?日積?」
「……」
さらに無言が続いて、ヤバいヤバいヤバい、と焦りだす真崎。
「お前、婚約者がいるんだろ?俺と、こんなことしなくても……」
「……、あんな奴と番う位なら、舌噛み切って死んでやる」
「ぶっ、物騒なこと言うなよ」
冷や汗をだらだらかきながら、真崎は言う。
「俺が、番うならお前が良い。お前が、信忠が良い」
そう言う日積の顔は、泣きそうに歪んでいて、とても見て居られるものではなかった。
拘束された腕が恨めしい。
「俺は、何のとりえもない人間だよ?そんな俺が良いって言うの?物好きだね、日積は」
と、真崎が笑えば、ごつんっ、と拳が降ってくる。
「俺が、お前を好きなんだ!そのお前が、自分を否定するな!!」
「わかった、分かったから殴るな!」
痛い!と言えば、拳は止まった。
何てバイオレンスな。
「で?何があった訳?俺にこんなことするなんて、なんかあったとしか思えないんだけど」
「……婚約パーティーを開くらしい。けど、俺はあいつを認めてない。だから、行きたくない。だから、先に番って婚約自体を破棄出来れば……」
「何で俺なんだ?」
と言えば、きっと睨まれた。
「この俺が、お前を好きだってさっきも!!!」
顔を真っ赤にして、睨んでくる姿は美形で強面のはずなのに、全く怖くない。
さっき、殴られたのは痛かったが。
「あー、言っちゃ悪いが俺もアルファだぞ?」
匂いの全くしないこいつは、たぶんアルファであるんだろう。こんな美形だし、頭も悪くない。むしろ、悪知恵が働くくらいだ。
「俺がオメガだ。何の問題もない」
何言ってんだ、と言う顔で日積は首を傾げた。
その言葉に、真崎は唖然として驚いた。
「おおおお、おえ、オメガ!?」
「だから、そう言ってる。そんなに珍しいか?」
こっ、こんな堂々としたオメガ居てたまるか!!!
真崎は、日積を見つめながらそう思った。
「珍しいとかじゃない!つか、嘘だろ?嘘って言え。お前がオメガなんて何の間違いだ?」
「疑ってんな。俺だって、3カ月の発情期はちゃんと来てっし」
ほら、と見せられた抑制剤。そして、腕の中枢に填る抑制器。
「普段はこれで、フェロモンも何もかも無かったものにしてる」
と、言いながら日積はパチンッとその抑制器を外した。
途端に、ふわりと漂い出す日積のフェロモン。
甘い香りに頭がクラクラと酔ってくる。
「……っ、はっ、やっぱ、辛い、な」
はっ、はっ、と荒い息を吐きながら、髪をかき上げる日積の姿を見た時には、真崎の理性はブチリ、と音を立てて切れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気が付いたら、ベッドの上で真崎は日積を抱きしめて眠っていた。
体を起こしてみれば、様々な液体に汚れていることが分かる。
そして、何より分かりやすく酷いと思ったのは、枕についていたどす黒い血の跡。
乾いていたが、これはきっと。
そう思って、真崎は急いで日積のうなじを確認する。
そこには、しっかりと己の歯形が幾つも残っていた。
「ん……っ、うぅううう、ま゛ざぎ?」
目が覚めた日積の声は酷いものだった。
真っ青になった俺は、とりあえずベッドから下りて土下座をする。
「ごっ、ごめん!噛んだ、俺噛んじゃった!!」
「ん、ごほっ、おれが、いいって、いった」
ごほごほと咳き込みながら、幸せそうに笑った日積。
その笑顔を見て、ホッとする。
とりあえず、声の出しすぎで疲弊しているのどのためにお水を渡した。
「で、でもお前、婚約」
「まだ、正式なものじゃなかったし、俺は反対していた。だから、大丈夫だ」
本当か?と思っていれば、日積の携帯がけたたましい音を立ててなりだした。
「チッ……、もしもし?」
音と着信の名前を見たとたんに、日積の機嫌は急降下した。
とても不機嫌そうに舌打ちをすると、そのまま電話にでた。
『蜜葉、今どこに居るんだい?』
「うるさいな。俺がどこに居ようと俺の勝手だろう」
『今日は大切なパーティーが在るから、絶対に帰ってくるように言ったのに』
「その事だが、俺はそれに出ないからな」
『お前にとっても大切な場所なんだよ?』
「俺は、番を作った。もう、婚約者に何てなれない」
そう、きっぱりと日積が言い放つと電話の向こうから、真崎にも聞こえるくらいの大きな声で、何て事だ!と言った声が聞こえた。
その声をとても楽しそうに聞いている日積。
『嘘だろう、蜜葉。お前、日積を潰すつもりか?』
「勝手に決めたのはアンタらだろう。俺の番は、俺が決める。俺は、あんな奴と番うつもり何てはなっから無かった」
『しかし!いや、もう何を言っても遅いのか……。分かった。分かったから、一度帰ってきなさい』
「断る。俺は、こいつと一緒に居る。番になったんだからな」
そう言うと、あちらの返答も聞かずに日積は携帯の電源を落とした。
「悪い。長話して」
「いや、そら良いんだけど……いいの?」
何が、とは言わないが、それでも意味をくみ取ったのだろう、ギロリ、と睨まれた真崎。
「俺は、お前が良いって言った。お前以外は要らないし、お前以外の物にももうならない」
お前の側に居る。
そう、日積は真崎の目をまっすぐに見て言った。
そうして、先に折れたのは真崎だった。
発情しているからでもなく、ただ真崎を好きだと言ってくれた日積を、手放せるわけもなかった。
「分かった……俺は、お前を好きになれる努力をしよう」
そして、日積の家の問題も片付ける努力を。
いきなり増えた難問に、真崎は頭を抱えるが、起きてしまったことを嘆いても仕方がない。だから、これからは日積と一緒に考える事にしようと決めた。
例え、問題が山積みで泣きたくなるほど逃げ出したくなるほどでも。
「……そう言えば、発情期は?」
「あぁ、それな。ホラ」
と見せられた腕には、いつの間にか抑制器が填っていた。
「俺の発情期はそんなに強くないし、長くないからこれで十分だ」
「……昨日の、あれは?」
「発情と言うより、お前に興奮してたって方が正しい」
ニッコリとそれはそれは綺麗に笑う日積に、真崎は否応なく泣きそうになった。
「頼むから、それ一生外さないで」
「あ?何?嫉妬?もう、お前以外誘う事無くなったから、良いだろ別に」
ちがぁあああう、と真崎は叫んだが日積はどこ吹く風だった。
「別に、俺はお前に襲われたってかまわない」
「俺が構うの!俺が嫌なの!」
「俺の事、嫌いかよ?」
「ちがっ、嫌いじゃないよ!ただね、傷つけたくないだけ」
昨日の事で分かったのは、発情期のフェロモンにやられると、理性を失うって事だ。
獣のように求めて、最悪、失ってしまうかもしれない。それが、真崎は怖かった。
「大丈夫だ。俺は、やわな体してねぇし」
「そういう問題じゃ……」
と、言いかけてその口に日積の人差し指が立てられた。
「大丈夫だ。自分を信じろ信忠。それが無理なら、俺を信じろ」
不思議と、何故かその言葉に救われた気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「歩、俺さ蜜葉と番って思ったことがある」
ラウンジでいつものように結城と雑談していた真崎。
唐突なその言葉に、結城は、は?とアホ面下げて真崎を見た。
「アルファって完璧な種だとか言ってる人居るけど、全然そんなことなくて、いやそれは分かってた事なんだけど、何て言うか……オメガと番うって欠けてる部分を補える気がして」
「あぁ、それな。分かるわ」
完璧と言われる種であるアルファだが、いつもどこか不安で、欠けている感じがする。それが、オメガと出会うことによって、補完されて本当に完全になったかと錯覚できるきがする。
それ程に、オメガの存在はアルファの中で大きなもので、それに気づけるって言う事は……。
「運命って、一目見たって匂いがあったって分かん無いけど、俺やっぱり、運命だと思うんだよねぇ」
前途多難だけど、それでも出会えてよかったとそう思える。それが、運命と言うものなのではないだろうか?
そう、真崎は考えた。
「そうだな……」
と、結城は珍しく微笑んだ。
END
真崎 信忠ーまさき のぶただー
愛称:ノブ
番:日積 蜜葉
備考:黒縁メガネの似合う美人さん。真崎家の次男坊。
優しそうな外見でアルファのため、襲われかける事数十回。軽いオメガ恐怖症。アルファ専用の抑制剤を使用しており、鼻が鈍い。
たぶん、きっと日積が運命の番なんだろうなぁ、と最近ようやく思った人。
日積 蜜葉ーひづみ みつばー
愛称:ミツ・みつば
番:真崎 信忠
備考:外見俺様遊び人。実は婚約者がいたが、その婚約者が大っ嫌い。で、どうするか考えていた時に出会ったのが真崎だった。発表前だったので、真崎を押し倒してゲットした。
実家のごたごたとかに真崎を巻き込んですまないと思ってはいるが、それでも真崎が良いと思ってしまったんだから仕方がないと開き直っている。
結城 歩ーゆうき あゆむー
愛称:あゆむ
番:???
備考:真崎の幼馴染。チャラい見かけで、昔は遊び人だった。が、今の番に出会って一途になった。
真崎とは授業前に良くラウンジで落ち合って話す仲。外見だけ見れば、とても友達とは思えない。
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