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第一章・2
お客様の少ない時間帯でよかった、と不幸中の幸いを噛みしめる樹里。
バイトを始めてもうすぐ1年になるが、初日も同じ失敗をしでかした。
(進歩、なさすぎ)
自分で自分を責めてみても、仕方がない。
ぼんやりと、考え事をしていた僕が悪い。
そう、この時刻になるといつも現れる、素敵なお客様のことを考えて、気もそぞろだったのだ。
その時、ドアベルの音が鳴ってカフェに人が入って来た。
途端に、樹里は顔を跳ね上げた。
「いらっしゃいませ!」
憧れの、あの人が店を訪れたのだ。
端正で引き締まった顔立ちに、アスリート体型。
清潔なスーツに、おしゃれなネクタイ。
いつものテーブルに掛けると、タブレットを取り出して操作しながら樹里が来るのを待ってくれる。
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