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第19,5話——黒田——

 黒田グループの浅ましさはそれだけに止まらない。  利権から財産分与まで、まだ少年である黒田が格好の標的となった。父親に愛人や隠し子もいない、ましてや妻であった裕子は現在失踪状態。残るは二人の子である黒田が狙われるのは自然の摂理と同様だった。  それから黒田一族の人間は、葬式に顔を出すこともしなかったくせに、これ見よがしに薄気味悪い同情を持ち出して黒田にいう。「養子にしてやる」と。  無論、黒田が父のために泣いた事を彼らは知らない。そして、父親側の人間は知っている。だから、養子にするという提案を簡単には呑まないし、黒田が断ることも信じて疑わなかっただろう。  だが、黒田はあの教訓さえ間違っていると知っていれば、自分自身が矢面に立つという自己犠牲だってできたかもしれないのだ。  腑の腐った連中の中で生きていた黒田は父が憔悴するまで、顔色ひとつ変えなかった。否、変えられなかった。その事実は、血は争えない事を身を以て体験した。    黒田は父親側の人間に背を向けて、黒田一族の提案を快諾する。 (諸悪の根源を潰してやる。その野望だけは手段を問わなくてもいいだろう)  そうして、内部から自滅を目論んだ黒田の、復讐に満ちた生活が始まった——。  言わずもがな、この件の主犯、母親の裕子を炙り出すことも計画に入っている。    そんな固い黒田の志半ば、母親の発見は意図しないところで達成されてしまった。  それは黒田が高校生になったある日だった。 「あら、ヒロキじゃない。久しぶりね」  裕子の方から声をかけてきたのだ。実に呆気ない再会を果たした黒田は、未だに思い出すだけで苛立ちが募り、沸点をぐんと下がる。  その当時の黒田は復讐に燃えていたこともあり、計画を頓挫せないことを念頭に置いて平静を装って言葉を紡いだ。  話せば、裕子は以前より収入の少ない男と一緒になり、慎ましく暮らしているらしかった。それに、大学生になる息子もいて、お金を工面しながら生活する今が一番幸せだと抜かしたのだ。  聞けば聞くほど裕子の胸ぐらを掴み、八つ裂きにしてやりたい衝動に駆られる。それを抑えるのがどれほど苦行だったか。  ——一言も「そっちは元気?」の言葉さえない。だから、教えてやる義理もない。  その態度を素直に受け止めざるを得ないので、黒田はことなきを終え、復讐の相手を再確認できただけよしとした。教訓に遵守し一人のパートナーを見殺しにした母親と、狂った教訓を打ち立てた黒田グループそのものに標準を合わせることは間違いない。   (必ず破滅に追い込んでやる。お前のいう幸せな一家諸共……)  「お、お義母さん?」裕子を呼んでいるらしい。    裕子の背のまた奥に、黒田より華奢で童顔な男が顔を覗かせる。  それが、田淵との最初の出会いだ。

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