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第11話
「えっ。おれ、征一郎と一緒に寝ていいの?」
夕食の片付けを終え、さっさと寝るぞと寝室に誘導すれば、ちびは意外そうに目を丸くした。
「他にベッドはねえし、お前ちっこいから邪魔になんねーだろ」
征一郎からすれば、拾ってきた動物と一緒に寝る感覚である。この少年は大型犬ほどの質量もなさそうだ。
隣を示すと、ちびは嬉しそうに微笑み、広いベッドに乗ってきた。
「……………ありがとう、征一郎。一人で寝るの寂しいから嬉しい」
じわりとこぼれたのは、無邪気さではない、切実さを感じる笑顔だった。
本当にそんなつもりは一切なかったのだが、芳秀の外道ぶりへの抗議が、少年を否定したように聞こえて心許ない思いをさせてしまっていたのかもしれない。
「(お前の部屋を用意させる……って言いづらくなっちまったな…)」
本人は大丈夫だと言っていたが、一人でいるのはあまり得意ではないようだ。
だとしたら余計に社会と接点を持っていた方がいいように思えるのだが。
「なあ、俺のとこに来ちまって本当に良かったのか?親父のところにいた方が賑やかだろうし、他にも選択肢はあっただろ」
聞けば、ちびは不思議そうに目を瞬いてから、ゆっくりと首を振る。
「おれ、征一郎と一緒がいい」
他の選択肢など考えてもいない、そんな調子ではっきりとそう言った。
こんなに素直な好意をぶつけられたことは今まで経験がない。
征一郎は動物には好かれるが、どれほどイメージを重ねようとも、人の形をして、言葉を交わせる存在を完全に別の種族として認識することは難しい。
芳秀の策略だとわかってはいても、少しくすぐったい思いがして、目を細めた。
疲れていたのだろう。
ちびは横になるとすぐに小さな寝息をたて始めた。
その隣で寝顔を見ながら考えるのは今後のことだ。
まだ短い時間ではあるが、接してみて一緒に暮らすのに何の問題もない素直で誠実な気性であることはよくわかった。
ただ、だからこそ自分の傍に置いておくことはこの少年のためにならないのではないかと思える。
内外に敵の多い征一郎の傍にいれば、関係者とみなされて危険な目に遭う可能性も高くなる。
黒神会とは関係のない里親を探して、一般人として生きていくことの方がずっと幸せなのではないだろうか。
「(それとも……親父の言ってた『主人』ってのが……近くにいねえと駄目ってことなのか……)」
ちびが口にした『寂しい』というのが、言葉の通りなのか、もう少し深読みするべきなのか。
やはりもう少し詳しく芳秀から情報を聞き出さなければと決心したところで、ちびがころんと寝返りを打ち、征一郎の方に体を寄せてきた。
人恋しいのか、寒いのか、仕方がねえなと密着したまま寝てやることにした征一郎は、今の己が、半裸の成人男性(ヤクザ)と征一郎のシャツ(使用済)を纏っただけの少年という、見方によっては犯罪的な構図になっていることに気付き、ショックを受けた。
ちびは少年ではあるが、子供というには少し大きい。
通常であれば保護者の添い寝を必要とする年頃ではないだろう。
「(いや、いいんだよ特にそういう意図はねえんだから……!)」
老若男女どころか人ではないものでも穴があれば即ち愛人、という当代きっての変態である芳秀とは違う、と、征一郎は誰にともなく言い訳をしていた。
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