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第21話
■都内某所 征一郎宅 リビング
「今日は時間あるからどこか出かけるか。お前もずっと家にいるんじゃ退屈だろ」
本日もホテルのラウンジのような朝食を有難くいただきつつ、そう提案をすると、ちびは「え……」と目を丸くした後、ぴかっと笑顔を輝かせた。
「いいの…?行きたい…!」
ちびが征一郎のもとへとやってきてもうすぐ一週間になろうとしているが、この少年が「外に行きたい」と訴えたことは一度もない。
恐らく芳秀の屋敷から出たことはなかったと思われるので、外に出るのが怖いのかという心配もあったが、この様子を見るとどうやら違うようだ。
遠慮していたのならばかわいそうなことをした。
稼業柄どんなところにでも行けるというわけではないが、できる限り好きなところに連れて行ってやりたい。
ここで暮らしていくにしても、社会との繋がりを持たせることはやはり大事だと征一郎は考えていた。
「お前はどこか行きたいところあるか?」
「…おれの行きたいところ?」
しばし思案していたちびは、思いついたらしくぱっと顔を上げた。
「征一郎のデートコース……!」
キラキラと期待に満ちた眼差しが突き刺さる。
今までデートにコースなどというものを用意したことはなく、背筋を嫌な汗が流れた。
しかし「そんなもんはねえ」と言える空気ではない。
内心困り果てながらも、了承するほかなかった。
食事と片付けを終えて、とりあえず着替えてこいと指示した征一郎は、ちびの姿が別室に消えるとおもむろにスマホを手に取った。
かけた相手は中々出ないが、しつこくコールし続けると『ちょっと、早朝から何?』という怒り心頭な声が応答する。
早朝といっても八時は回っている。自分と先方の間柄を考えれば、非常識というほどの時間ではないだろう。
「ああ月華、お前の方が詳しそうだから聞きたいんだけどよ、女子供が喜ぶデートスポットってどこだ?」
『はあぁ?デートプランくらい自分で考えてよ大人でしょ!?僕寝たの明け方なんだけど!』
ものすごい剣幕だが、月華はとにかく午前中は寝ていても起きていても機嫌が悪いので、慣れている征一郎は全く気にしない。
「バーだのホテルだのに連れてくわけに行かねえ相手なんだよ。いいから教えろ」
『あのさ、他に女の子をエスコートする場所思いつかないわけ!?』
「女に不満言われたことなんかねえぞ」
『最低!』
僕そういうサービス精神に欠けるお付き合い大っ嫌い!と叫びながらも、この後情報送るからと結んで一方的に電話は切れた。
これですぐに有益な情報が送られてくるだろう。
持つべきものはいい相棒だ。
今は怒っていても、後日ニヤニヤしながら「それで?初デートはどうだったの?」などと聞いてくるに違いない。
「征一郎、これでいい?」
その間にちょろちょろと戻ってきたちびは、おろしたてのロングパーカーを軽く翻して見せた。
褒めてやった方がいい気配を感じ、似合ってるぞと頭を撫でてやると、縁側の猫のようないい顔をする。
それに満足感を感じてしまった自分に、相変わらず「これでいいのか」という気分になるのだった。
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