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第26話
■都内某所 征一郎宅 ダイニング
「ごちそうさまでした」
その日、ちびはほとんど箸を付けずに夕食を終えた。
早いな、と思って皿を見ると、己で取り分けたぶんすら食べきれていない。
「何だ、ほとんど食ってねえじゃねえか」
「あ……今日はおやつ食べすぎちゃって。よかったら征一郎食べて」
「お?おお」
ちびは椅子を降りて、さっさと自分の分の食器を片付けてしまう。
常とは違う姿に微かな違和感を感じたが、確かにずっと部屋の中にいるのだから、それほど腹も空かないかもしれねえなと、征一郎はそれ以上つっこまず、有難く多めの夕食をいただいた。
しかし異変は続いた。
「風呂入るか?」
食事と片付けを終えて、声をかけると、ちびは頭を振った。
「さっき入ったから大丈夫」
湧いてるからどうぞ、と言われて、首を傾げる。
そんな反応は初めてだ。
ただ、……まあ、そういうタイミングの日もあるだろうと、何か少し物足りない気持ちで湯船に浸かった。
更に。
「そろそろ寝るぞ」
「えっと……おれ今日ソファで寝るから」
これには流石に征一郎も衝撃を受けた。
「そ…うか?」
「うん。おやすみなさい」
ちびはブランケットを一枚かぶってさっさと寝てしまう。
征一郎は、謎のショックを受け、ベッドを譲って自分がソファに寝るという選択肢を考える余裕もなく、トボトボ寝室へと移動した。
■都内某所 征一郎宅 寝室
衝撃を受けたが、何故、と問うことはできなかった。
『おれ今日ソファで寝るから』
いつもよりも堅いちびの声が脳内に木霊する。
……避けられている。
違和感が具体的な懸念になり、征一郎はベッドの中で一人、激しく動揺した。
「(な 何かしたのか俺?あるいは反抗期!?思春期!?お年頃ー!?)」
洗濯物を分けて洗ったりするアレだろうか。
汚物扱いは男嫌いな妹がいるので慣れているが、ちびの場合今までとの落差が大きすぎて正直ダメージが大きい。
いや、だが、ちびが最近芳秀に作られたというのならば、成長過程で反抗期がある可能性もあるのだろうか。
それとも何か地雷を踏んだのか。だとしたらやらかしてしまった己の罪を思いつかないあたり、罵られても蔑まれても何の言い訳もできない…。
翌早朝。
鳥の囀りも聞こえてきそうなキラキラした日差しが、カーテンの隙間より差し込んでいる。
「(…………眠れなかった……)」
ありとあらゆる悪い想像に苛まれ一睡もできず、こんなにもさわやかな朝だというのに、征一郎はどんよりと重い頭を起こした。
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