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第52話
■都内某所 征一郎宅 寝室
ちびが夕食を温めている間、征一郎は着替えてくると言って寝室へ向かった。
着替えるより先に懐からスマホを取り出し、おもむろに電話をかけ始める。
それは、ほとんど待つことなくすぐに繋がった。
『俺だ』
「親父、ちょっと聞きたいことがあんだけどよ……」
挨拶もなしに話し始めた征一郎に、電話の向こうで芳秀がやれやれと溜息をついているのが聞こえたが、手早く済ませたいので黙殺する。
かくかくしかじかと玄関でのやり取りを説明した。
「あいつにゃ他にも何か能力あんのか?いらねえ地雷踏まねえようにあらかじめ教えろ。むしろ前言ってた取説とかいうの寄越しやがれ」
『段階踏めば他にもいくつか便利な能力は使えるようになるかもしれねえな。取説寄越せっつっても古ラテン語読めねーだろお前』
日本語以外の言葉を話そうと思ったことすらない征一郎には古ラテン語がどんな言語だか想像もつかない。
むしろ芳秀はそんなものを読んでいるのか。相変わらずヤクザとして何か間違っている。
『お前はちびを便利道具的に使う気はないんだろ?だったらどんな能力があろうと気にせず家政ホムンクルス兼穴としてだけ使っときゃいいじゃねえか』
芳秀の外道な発言に、それはそれで道具扱いだろ、と眉を顰めた。
征一郎はちびにちびであること以外のことを求めるつもりはない。ただ、知らずに無神経なことを言って傷つけたくないだけだ。
『お前は考えすぎなんだよ。俺にガタガタ言う暇があったらせっせと燃料注入してやれ』
「そう言われてもあいつすぐ熱出したりするから大事にし」
『つーかアレだ。あいつの一番の特性はフィクション並みのハードなプレイにも耐えられるボディの耐久性だからな?どんな欠損も主の体液一つでサクッと回復!臍姦でも触手貫通でも人外生物の苗床でも』
「邪魔したな」
言葉の途中で電話を切る。
この外道は、本当にろくでもないことしか言わない。
無駄な時間を過ごしたと後悔しながら、征一郎はネクタイをむしり取った。
■都内某所 征一郎宅 浴室
ちびはどう思っているのだろうか。
すっかり習慣になったちびとの入浴中、ぜんまいで動くサメのおもちゃをぷかぷかさせる無邪気な少年の後頭部を見下ろしながらも、征一郎の眉間の皺は深い。
もしも芳秀の言うような特殊なプレイを望んでいるのだとしたら、応えるべきなのか。
特殊なプレイどころか、これまでの様子では、少し触るだけでもいっぱいいっぱいという印象だったのだが。
「(つっても、苗床とか言われてもどうしようもねーが…)」
人間離れした強さ……とはよく言われるが、だからといって、人間以外の生殖行動はできない。当たり前だ。
オナホを妊娠させられる(という噂の)芳秀とは違うのだ。
「回りくどいのは苦手だから単刀直入に聞くが、お前は好きなプレイとかあんのか?」
「え…ぷ、プレイ…?」
やはり聞くほかないかと渋々口を開くと、ちびは頬を染めて振り返る。
少々、直接的すぎただろうか。
デリカシーのようなものを征一郎に求められても困るが、気分を害したようなら素直に電話の内容を話し、全て芳秀のせいにしてしまおう。
ちびはもじもじとサメを弄んだ後、ちらりと征一郎を見上げた。
「あの…プレイとは違うかもしれないけど…」
「何だ?」
「征一郎が優しく撫でてくれるのが…好き……」
いったいどんなプレイが飛び出すかと身構えたが、出てきたのはそんなかわいい『好き』だった。
バスタブのふちに置いていた手を持ち上げる。
「……こうか?」
撫でてやると、ちびは「んー…」と満足げな吐息を漏らして猫のように目を細めた。
これならば、いくらでも与えてやれる。
聞きたかった事とは少し違うと気付きながらも、征一郎は少々ほっとして、小振りな頭をなでなでし続けた。
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