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幕間8
■都内某所 秘密結社 暗黒の夜明け団本部 応接室
どんな趣味の悪いところに連れていかれるかと身構えていたが、商談用の応接室らしき場所は、拍子抜けするほど普通の部屋だった。
シンプルだが質のいい応接セット。整頓されたキャビネットの近くのサイドテーブルには最新モデルの端末が置かれ、『謁見の間』とやらの時代がかった演出はなんなのかと問い詰めたくなるほど近代的かつ機能的だ。
そしてこれまた意外なことに、出された紅茶も思わず「美味しい」と素直な感想が漏れるほどに香り高かった。
月華に褒められて、九鬼は鼻高々だ。
「当然だ。紅茶こそが神に捧げるのにもっとも相応しい飲み物だからな」
「君の神様がそう言ったの?」
「いや?だが、紅茶は素晴らしい。人類の生み出した最高の叡知といえよう。人類は皆、紅茶を飲むべきだ」
「うん、自分が紅茶が好きだから、みんなに飲んでほしいだけってことだね」
月華は再び死んだ魚の目になりながら、うっかり感想を漏らしたことを後悔した。
九鬼の発言はツッコミどころしかなくて、しかし一々相手をしてやるのも面倒だがしかしやはりツッコミたいというジレンマ。
『黄泉の神』とやらは、もう少し、声を伝える相手を(以下同文)
これ以上この男のペースに巻き込まれていたら頭がおかしくなりそうで、早く仕事の話をしようと急かす。
「せっかちだな我が同朋は」と芝居がかった動作で肩を竦めた九鬼が軽く手を挙げると、部屋の隅に控えていた三角頭巾が、端末を立ち上げてテーブルの上に置いた。
「ではまずは、報告だ。依頼通り、吉野の長男は完全に掌握した」
証拠ということだろう。液晶には、九鬼に向かって頭を下げている一人の男が映っている。
月華はその映像を、冷めた眼差しで見遣った。
「ヨシノの株価が回復してるの見たよ。あれが暗黒の夜明け団の密儀、秘蹟の力……ってこと?」
「…と、あの男は思っているだろうが、株価に関しては知り合いのアナリストにわざとらしくヨシノの株を買ってもらっただけだ。そうすると、買いの株なのかと思って他のトレーダーも動くだろう。いやはや、こんなことを思いついてしまう俺の明晰すぎる頭脳が恐ろしいな」
「そういうの、仕手っていうんだよ。投機家にはごく一般的な株価操縦」
「フッ…大方そいつらは俺のやり方を真似たんだろう。まあ、俺は寛大だからな。これで多くの資産家が生まれ、市場が潤うための礎になれるのならば、俺の知的財産権など瑣末なものだ」
「………………………」
駄目だどうしようまともな会話が一分も続かない。
それでも、月華にはこの男の力が必要なので、帰りたくなる気持ちをなんとか抑える。
九鬼はどこにいても目立つので、金持ち連中が暗黒の夜明け団の名を密やかに口にするようになった頃には、その人となりは知っていた。
心の底から近づきたくはなかったが、この度話題に上がった『吉野の長男』からその弟を穏便に取り上げるためには、九鬼の……暗黒の夜明け団がどうしても必要だったのだ。
そして忍耐を重ねた甲斐あって、その弟を解放することができた。
彼は今は好きな人と暮らしながら、月華の持つ店で働いている。
「と……にかく、生かさず殺さずでこっちに引きつけといて欲しい。こちらも、指定された人には声をかけておいたから」
「ああ、既に本人から連絡を受けている。我が同朋も……と言いたいところだが、この同盟は秘めたものの方が力を持ちそうだ」
「悪いけど、神様にも秘蹟にも興味はないんだ。その代わり、何かお困りの際は力になるよ」
「お前の俺を慕う気持ちはよく分かった。だが、無用の心配だ。俺には我が神、我が主がいてくださるからな。矮小な人類の助力は必要ない」
「ああ…うん…そう………」
誰も慕ってないとか、お前も矮小な人類だろとか、言いたいことしかない。
「もちろん、どうしてもお前が俺のそばに侍りたいというのであれば、それは歓迎しよう」
本当に、『黄泉の神』とやらは、もう少し(以下同文)
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