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第2話
ラグビー部室には俺を学食に呼び出した遠田龍樹 が、すでに部活の準備を終えて待機していた。
「光樹 、ちゃんと学食にいた?」
ゴリゴリのラグビー部員な遠田から光樹と同じ成分がまったく見当たらず、おまえらホントに兄弟なのかと疑いたくなる。
「いたけどさ、かわいそうだろ。告白する気なかったって言ってたぞ」
兄の暴挙のおかげで光樹は俺に告白せざるを得なくなった。
ベンチに座っていた遠田は、立ち上がって訴える。
「でもさ、俺の気持ちも考えて?!」
「なに、遠田も俺が好きなの?」
「俺しょっちゅう光樹に鷹沢 がカッコいいとか優しそうとか色っぽいとか好きだとか聞かされてんだぞ。うるさいからさっさと告白しろよってなるだろ?」
そーなの?
光樹意外とオープンな性格してるな。
「告白されても困るんだけどな」
「別にあれ、アイドルにキャーキャー言ってんのと同じだろ。キャーキャーされてろよ」
んん?
そうだったか?
「友達からお願いしますみたいに言われたけど」
遠田はそこで動きを止めて考え込む。
そして笑顔で、俺の肩を叩いた。
「ドンマイ! 鷹沢ホンモノのアイドルじゃねーし、せっかくだからカラオケとか誘ってやって。光樹超喜ぶよ」
遠田は深く考えてなかったが、光樹はきっかけつかんで深い仲を望んだってことなのだろうか。
光樹が超喜ぶ、少ししか話してないのに、すごいわかるんだよなー。
喜ぶなら誘ってやりたい気もするが、ぬか喜びさせても悪いかな。
とか思いつつ、カラオケ大好きな俺は、自分の趣味七割光樹の笑顔三割くらいの気分で、日曜の午後に光樹とカラオケの約束を取り付けた。
スマホのメッセージで日曜のやり取りしたときは、事務的な文面でホントに喜んでるのかわかんなかった。
けど待ち合わせ場所に来た光樹は、笑顔が隠せない様子で終始ニコニコしていた。
「私服の春斗さんもカッコいいな。胸板とか腕とかスゴイね」
駅からカラオケ店までの道中、光樹は周りの目も気にせずそんなことを言ってきた。
素直に褒めてんのかいかがわしい目で見てるのかわかんねー。
「遠田はもっとすごいだろ」
「兄さんは見慣れてるからなんとも思わないんだけど、春斗さんは顔と身体と中身のギャップで、色っぽく見える」
……いかがわしい目で見られてんのかな?
少年にそんなこと言われてもドギマギとかするわけでもなく、ただなんとなく気恥ずかしくて、俺は話をそらす。
「俺ね、カラオケ本気で好きなんだよね。家でもスマホのアプリで歌ってるレベルで」
仲間とカラオケ行くと順番があるしあんまりガチにもなれない。
一人カラオケする度胸もなかったので、実は二人カラオケを俺は楽しみにしてたりする。
「なんのアプリだろ? 俺もカラオケのアプリ持ってるよ」
俺がそのアプリを見せると、光樹の使っているアプリと同じものだった。
ただ、俺はカラオケ録音をアップロードしながら同じ趣味の人間と交流するのに使っていたが、光樹はさすが演劇部、『声劇 』をするために使っていた。
音楽に歌を乗せるんじゃなくて、BGM流しながらセリフを読み上げるやつ、俺はやったことないけど。
カラオケ店に入ってすぐにアプリのアカウントをフォローし合うと、やはり光樹は心底嬉しそうな顔をした。
さっそく俺から歌うと、光樹は俺を絶賛してきた。
低くて甘くて安定してるそうだ。
俺も歌は自信あるほうだけど、演劇部員に詳細に褒められるのは気分がいい。
そして光樹の歌は。
遠目に美人だと錯覚させる人間、声がクリアで響きがいい。
やはり歌も相当上手かった。
単に上手いんじゃない、心がこもってるんだろうか、聴き惚れる歌いかたをする。
真剣な眼差しで歌い終えたところを褒めると、光樹はとたんにうっすらと照れる。
普段の会話の声はクリアさとか響きだとかは意識してない、顔に似合わず堂々とした迷いのない感じ。
歌声とのギャップが、面白いような圧倒されるような。
俺を不思議な気分にさせた。
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