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第一章・5

「じゃあさ、いいモノあげる」  そう言ってニネットが指先でつまんだものは、ひとつの小さなカプセルだった。  一見ただの薬だが、彼がわざわざ持っているとなると、何か違法の香りがする。 「すごいよ、これ。天国にイけちゃうよ?」  やはりな、とギルは眉根を寄せた。  女の前振りがあったところを見ると、おそらくは媚薬。  カラドでは禁止されている類のドラッグのはずだが。  ギルの心中を察したか、ニネットはにやりと笑って言いわけをしてきた。 「大丈夫だって、外でしか使わないから。バレるわけないって」 「すでに私にバラしている事は解かっているのか」 「ギルはこんなこと、チクったりしねえ。そうだろ?」  確かに、とため息をついた。  ニネットを庇いだてするわけでもないし、悪事に加担するわけでもない。  ただ、こんな些細な揉め事に巻き込まれるのは面倒なのだ。  違法ドラッグの存在は捨て置けないが、仮にも神騎士であるニネットを巻き込んでの騒ぎは起こしたくない。  せいぜい彼にこれを調合して与えた薬剤師をつきとめ、それとなく左遷するだけだ。

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