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第 21話
「お疲れ様です」
「お疲れ様。あと、よろしく。あ、でも無理しないで適当なところで切り上げて帰って」
「はい、分かりました」
残業する予定の社員たちと挨拶を交わしてオフィスを出る。今日はいつもより随分と早く切り上げた。急いで寄るところが何件かあり、それから帰宅する予定だった。
携帯を取り出して目的の番号へ電話をかける。数コールで相手が出た。
『もしもし? 哲也さん?』
「陸? 今、仕事終わったから。ちょっと寄ってくところがあるけど、1時間ぐらいで帰るわ」
『うん、分かった。そしたら、その時間に合わせて夕飯作るから』
「なあ、ほんとにいいの? 今日は外食すればいいじゃん」
『いいって。家でゆっくり哲也さんと食べた方が嬉しいし』
「分かった……じゃあ、後でな」
『うん。待ってるね』
電話を切って携帯を鞄に仕舞うと、代わりに車の鍵を取り出した。駐車場に急いで向かう。
今日は、陸の誕生日だった。陸は何も特別な物は要らないし、しなくてもいいと言ったが、そんなわけにはいかない。
施設育ちの陸が心から誕生日祝いをされたことなど、きっと数えるほどしかない。だからこれからは、毎年、陸が辟易するほど祝ってやりたいのだ。
それに。
今夜はどうしても特別な夜にしたかった。そのため本当は普段滅多にすることがないちょっと贅沢な外食を考えていたのだが、陸にあっさりと却下された。
『哲也さんと2人きりで祝いたい』
ちょっと甘えた風に上目遣いで言われて誰が無理強いできようか。その時の可愛らしい陸の顔を思い出して、哲也は乗り込んだ車の中で1人ニヤけた。そんな自分に自分で気づいて軽く引く。
うわっ、俺って変態みたいじゃん。と顔を慌てて元に戻しつつエンジンをかけ、陸へのプレゼントのために車を走らせた。
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