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第 23話
食事が終わり、ソファに移動してワインを飲んだ。
陸はすぐにテーブルを片付けたがったが、俺が後でやるからと、半ば無理やりにソファへと引っ張っていき、一緒にテレビを観ながら寛いだ。
たまたまテレビでやっていた映画を何気なく観ていると、急に隣で陸がふふっと笑った。
「どうしたの?」
「ん? なんか……嬉しくて。哲也さん、今日すごく優しいから」
「なにそれ。今日だけじゃなくて、いつもだろ」
「うん、そうだけど。今日は特別優しい」
そう言って陸がすり寄ってきた。その陸の肩に手を回してぐっと引き寄せる。ふと目が合った。自然に唇が重なる。
「ん……」
陸が艶のある声を出した。それが合図となって、キスが段々と深くなる。このまま押し倒したい衝動に駆られたが、辛うじてそれを堪えた。哲也はそっと唇を離して至近距離で陸を見つめた。
「陸」
「……なに?」
「話がある」
「…………」
一瞬。陸の瞳に不安の色が見えた。その瞳に軽く微笑んで、哲也は立ち上がると通勤用の鞄から書類を取り出した。それを手にしてソファに戻ると、再び陸と向き合った。
「なあ」
「…………」
陸がじっと哲也の意図を探るようにこちらを見つめている。
「結婚、しようか」
陸が驚きに目を見開いた。信じられないものでも見るかのように哲也を見つめたまま動かない。
「まあ、結婚って言っても俺たちにはその権利がないからできないけど。別の形でもいいから、お前と一生一緒にいるためのけじめというか、形が欲しい」
そう言って、書類を陸に手渡した。陸が、恐る恐るその書類を見る。
「……養子……縁組?」
「うん、そう。それなら、俺に何かあっても、お前に色々と残してあげられるし。家族としてお前を守ってやれる」
「でも……」
「俺さ。たぶん、とっくの昔にこうしたかったと思うんだよね。なのに、どこかでお前の全てを俺が引き受けていいのか、俺でいいのか、怖くてずっとその気持ちから逃げてたんだと思う」
「哲也さん……」
「……待たせてごめん」
「…………」
右手をそっと持ち上げて、陸の左頬に添えた。陸に届くように、自分に言い聞かすように、はっきりと伝える。
「家族になろう」
「…………」
陸の瞳に、時間をかけて、ゆっくりと涙が溢れた。音もなく頬を伝う。綺麗だな、と哲也は思った。泣くだけで何も答えようとしない陸の瞳を覗く。
「だめ?」
そう聞くと、陸がぶんぶんと激しく頭を振った。
「だめ……じゃ……ない……」
「……そうか。それなら、良かった」
「哲也……さん……本当に……俺……でいいの……?」
泣きながら訴えるその問いかけに少しムッとして、哲也は陸の顎を掴んで持ち上げると無理やりにキスを落とした。
「んっ……てつ……」
ひときしり陸の口内を愛した後に、唇を離す。少し不機嫌な口調でようやく陸の問いに哲也は答えた。
「お前じゃなきゃ嫌なの。分かった?」
「……うん」
真っ赤になって頷く陸が可愛くて、思わず抱き締める。陸が哲也の胸に顔を強く押しつけてきた。そのままの状態で哲也に小さく呟くように話しかけてきた。
「哲也さん……」
「ん?」
「俺のこと、好き?」
「……うん」
腕の中で陸が笑った気配がした。
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