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おまけ・優斗編2

大学へ入る頃には特訓の成果もあってか、人ごみに入ったり話しかけられたり、不意に触れられたりしても鳥肌がたつこともなくなった。 …まだ相変わらず苦手意識はあるんだけど、それでも電車に乗って学校に通ったり、1人暮らしもできるようになったのだから大した進歩だ。 しかもこんなオレが社内で常に人気NO.1の看板彼氏になってしまったから驚きだ。 手を繋がれても振りほどかなくなったとはいえ、未だ繋がれた瞬間顔はしかめちゃうし、相変わらず会話はぶっきらぼうで楽しくどころかまだ普通にすら話せないのに…なぜか彼女になる人たちはそれがいいらしい。 …本当に女はわからん。 社長からは「女克服したからって辞めないで…!」と泣きつかれたし、まだ苦手意識があるからもう少し直したいので、こんなオレだけど大学2年になった今でも有料彼氏を続けさせてもらっている。 (今日の彼女は初めての利用なのに顔写真なしか…服装の情報もないけど、ちゃんと会えんのかな?) 待ち合わせ場所は駅近くにある大きな看板の前。 有名な待ち合わせスポットってわけじゃないけど、目印になりやすいからそれなりの人が既にたむろっていた。 もう来てるかな…と視線を彷徨わせると何人かの女性と目があった。 (……いったいどの子だろう) 全員に声をかける訳にもいかずに黙って佇んでいると、1人の女性に声をかけられた。 「あの…」 「…はい」 (この子が"青"さんか…) 声をかけてきた女性に目を向けると、いかにもギャルです!って感じの子がそこにおり、 つけまやカラコンで目をどでかく、そして胸は谷間が見えるようにYシャツのボタンをガッツリ開けて強調させていた。 もやっときた苦手意識を落ち着かせるために少し遠い目をして意識を拡散させていると、 「あの…今からお時間ありますか?よかったら一緒にお食事でもどうですか…?」 と女性が続けた。 (…え?何?青さんじゃないの?ただのナンパ?) そうと分かれば遠慮なく、距離を取るように一歩後ずさりしながら断りを入れた。 「………人と待ち合わせしてるんで…」 「そうなんですか…じゃあ連絡先とか交換してもらえませんか?」 オレが下がった分だけ彼女もずいっと近づく。 「……や、無理…」 相変わらずのぶっきらぼうな返事をしてもう一歩後ろへ下がるが、彼女は負けじともう一歩近づいてきた。 「お願いします!一目惚れなんて、初めてで…」 「いや、オレ彼女いるから…!」 (今日だけの彼女だけど嘘はついてない…!) それでも彼女は「じゃあ写真だけでも…」としつこく迫ってきたが、全部にきっぱり断りを入れるとやっと離れて行った。 (……久々にちょっと怖かった…青さんまだかな…) ナンパされることは時々あるが、こんなにしつこく迫られるのは久々だ。 お客さんでも"彼女"が傍にいてくれるとナンパされることはまずいないので、オレは青さんが早く来てくれないかと心の底から願った。 青さんを探すようにふいっと視線を巡らせると、看板から少しだけ離れた位置にさっきまでいなかった女性が1人、佇んでいるのが見えた。 その女性はナチュラルメイクなのか化粧を全くしていないのか分からないほど化粧っ気がなく、顔の1つ1つのパーツはいたって普通なのに…肌や配置がいいのか、特別際立った美人ではないのに、なんでか妙に綺麗だった。 服装はワンピースの下にズボンを履いていて、靴はスニーカー。 スカートという女性らしい服装なのに女を強調している感じが全くなく、初めて見た女の人なのに全然恐怖心が湧かない。 それどころか女性恐怖症になって以来初めて、女性に少し心が揺れた。 (…あの人が青さんだったらなぁ…) 前々から自覚をしていたが、自分は女性の中でも化粧が濃い人や、女を強調してる人は特に苦手だった。 だけど優斗の思いに反して、有料彼氏を利用する"彼女"はデートをするために張りきっておめかししてくるため、どうしても女らしさを出してくる人が多い。 (…でもあの人はオレの方に来なかったから青さんじゃないってことか) ふぅ…とため息をついて目を閉じると、また女性に声をかけられる。 「……あの、すみません」 「…はい」 (青さんだろうか…) ぱっと目を開けると、背の低い小柄な女性が上目づかいで自分を見ていた。 「……あの、あんまりにカッコいいんで、声かけちゃいました。自分から声かけるのなんて初めてなんですけど…よかったら…えと、友達とかでもいいんで、仲良くしてもらえませんか?」 「………彼女いるんで」 「あ、そうなんですか……すみません」 今度はそれだけで女性は去っていってくれたが、また青さんじゃなかった。 その後2人ほどに声をかけられたが、やはり青さんではなかった。 (待ち合わせより早く着いたけどさぁ…まさかこんなに違う女性に声をかけられるとは…) こんなに短時間で何回もナンパされたのは初めてで、デートはまだこれからだというのに既にげんなりと疲れ果てたところでようやく待ち合わせの時間にななった。 「……あの、榊原、優斗さんですよね?武井青です。初めまして、今日はよろしくお願いします」 時間ピッタリにそう声をかけてきた女性を見て、オレは目を瞠った。 (この子…さっきからいた、あの子じゃん…!) どくん、と女性への恐怖ではなく興奮で胸が高鳴るのが分かった。 「…え?青さんなの?え?さっきからそこにいたよね?何で声かけてくれなかったの?」 「え…?あ、女性と話されてたので…なにか、用事なのかなぁと思いまして…約束の時間まで待ってました」 「え、何それー…もー…オレずっと青さん待ってたのにー!話しかけられる度に青さんかと思って接してたらみんな違うからさー…どうしようかと思ったよー」 「え、そうだったんですか?すみません」 青さんがめっちゃ慌ててる。 見た目だけでなく中身もぐいぐいきたりせず柔らかい感じで…女性なのになんかすごく癒される。 そんな青さんを見ながら、オレはその時になって初めて自分が普通に喋れて、ましてや笑顔を浮かべていることに気づいた。 (…やばい、何これ、どうしよう。楽しい…!) これがデートというものなのか。 心臓がバクバク煩く音を鳴らして、飛び出るんじゃないかと思うほどだ。 「…何て呼べばいい?青さん?青ちゃん?あっちゃん?」 「…青がいいです」 「青ね、了解。オレのことは好きに呼んでね」 「じゃあ、優斗でも、いいですか」 「もちろん!じゃ、いこっか」 いつもなら彼女に促されて仕方なく手をつないでいるのに、初めて自分から繋ぎたくて彼女の手に手を伸ばした。

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