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第1話 初めまして。

中学生にもなって迷子とか、ホント笑えない。 方向音痴って昔からよく言われるし、そうなんだろうなって自分でも思ってたけど。学校で迷子になるなんて思わなかった。 ももがやけに心配してくるから、意地張って迎えにこなくていいって言っちゃったけど、黙って言うこと聞いとけばよかったなぁ。 だって、高校がこんなに広いなんて知らなかったし! ボクだってもう3年生になったし、高校の校舎は入ったこと無かったけど、大丈夫かなって思ったんだもん! 自分の教室から毎日見てたから、中学校よりも大きいのは知ってたけど、まさか迷子になるとは。 中学生になったばっかりの頃も迷子になったっけ。その時は3年生だったももとたまたま会えたからよかったけど、今日は生徒会のお仕事で忙しいって言ってたから無理だろうし。 ぐるぐるしすぎてもう中学校にも帰れなくなっちゃった。ここ何階なのかもよくわかんない。 早くしなきゃ、ももが待ってるのに… ていうか、今お昼休みなのになんで誰にも会わないんだろう? なんか入っちゃダメなとこ入っちゃったのかな。そういえばこっちの方なんか暗いし、ボロい気がする。 うわ〜〜なんか怖くなってきちゃった。 もうやだ、泣きそう。歩き回ったから疲れたし。 「うぅ〜〜もうやだぁ、もも〜〜ぅ〜〜〜っ」 ガタンッ 廊下の端っこで蹲って泣いてたら、おっきい音が聞こえてびっくりした。 誰か来たのかな。生徒会室の場所教えて貰えるかも。でもお化けかもしれないし。怖くて顔あげられない。 でもでも、普通に生徒だったら泣いてるとこ見られるの恥ずかしいんだけど。取り敢えず泣き止まなきゃ。けど、怖くて涙止まんない。どうしよ。 「……ねぇ、こんなとこでどうしたの?」 突然話しかけられてびっくりして顔あげちゃった。そしたらオウジサマみたいにかっこいい顔が目の前にあってまたまたびっくりした。 綺麗な金髪に緑の瞳。一瞬外国の人かと思ったけど、でもさっき日本語喋ってたし、ハーフなのかな? オウジサマと目が合ったまま、そんなことを考えてたら、困ったみたいに首を傾げられた。気の所為かもしれないけど、オウジサマのほっぺたが赤い気がした。 「……そんなに泣いて、どうしたの?」 オウジサマの手がすっと伸びてきて涙を拭ってくれた。急に恥ずかしくなって顔が熱くなる。 「っ、あ、あの、ボク、もも…お兄ちゃん探してたら、迷っちゃって、えと、あの、」 慌てて喋ったら訳わかんなくなってきた。 あわあわしてたら、ぽんぽんって頭を撫でてくれた。 「ふふ、大丈夫だから、落ち着いて、ね?」 優しく微笑まれて、顔が真っ赤になるのが見なくてもわかる。オウジサマと目が合ってから、ドキドキして落ち着かない。心臓おかしくなっちゃったのかな。 「……っ、」 こくりと頷くとまた頭を撫でてくれた。 「ね、名前、なんて言うの?」 「める!孝志(たかし) 苺瑠(める)!苺に瑠璃色の瑠!」 ボクの前に座って、名前を聞いてくれた。嬉しくって元気に答えたら、また優しく笑った。 「あはは、元気になった。いちごかぁ、可愛い名前だね」 僕のこといちごなんて呼ぶのはももだけだからなんか変な感じ。ずっと心臓はドキドキしてるし。それにボクはいちごじゃなくてめるなんだけどなぁ。 「いちごじゃなくて、ボク、めるだよ!」 「いちごってよばれるの、いや?」 「嫌じゃないけどっ、恥ずかしいから、めるって、呼んで、欲しい」 恥ずかしくってどんどん声が小さくなっちゃった。 「ふふ、そっかぁ、じゃあめるちゃん。俺の名前はね、貴嶺(たかみね) (こう)。よろしくね?」 「うんっ!」 手を差し出されたから、握手かなって思ってぎゅって握ったら、そのまま手を引かれて一緒に立ち上がった。 「わ、ぁ!」 急だったからよろけたボクを輝くんが受けとめてくれた。ハグするみたいになって慌てて離れた。 「ごめんなさい!ぶつかっちゃって…!」 ドキドキしながら輝くんの顔を見ると、僕の手を握っていない方の手で顔を隠しちゃった。 「こっちこそごめんね、急に立ったから、」 輝くんはふぅっとひとつ息を吐くとぱっとにこにこ笑顔を見せてくれた。 「お兄ちゃんを探してるんでしょ?生徒会室にいるだろうから、連れて行ってあげる」 「え、なんで生徒会室にいるってわかったの?ボク、言ってないのに!輝くんエスパーなの!?」 お兄ちゃんを探してるとしか言ってないのにわかったなんてすごいなって驚いて聞くと笑われた。 「エスパーなんかじゃないよ。めるのお兄ちゃんってもねサンでしょ?」 「うん。孝志桃寝(もね)だよ」 ボクは、ももかお兄ちゃんって呼ぶことの方が多いけどね。 「だよね。苗字同じだし、名前も苺と桃でちょっと似てるからわかったよ。もねサン生徒会長だから有名だしね」 「そっかぁ、輝くんは頭いいんだね。あっ!」 急に大きい声を出したから、輝くんをびっくりさせちゃった。 「どうしたの??」 「ボク、急いでるんだった!お兄ちゃんにね、お弁当届けに来たの!忘れてたぁ!」 オウジサマみたいにかっこいい輝くんに気を取られてすっかり忘れてた。ももがお弁当待ってるのに! 「?お弁当?お昼休みならまだだからそんなに急がなくても大丈夫じゃない?今はまだ4時間目の授業中だよ」 「えっ、そうなの?」 だから全然人に会わなかったのか!中学校はもうお昼休み中だから気づかなかった。ん?でも、輝くんは?輝くんも授業中じゃないのかな? 「めるはまだ中学生?なら高校の時間は分からないもんね」 「うん、でも、輝くんは?授業どうしたの?ボクとお喋りしてて大丈夫なの?」 中学校の制服を着てるからわかったんだろう。もうエスパーだなんて思わないぞ! 「大丈夫大丈夫。もうすぐお昼休みになるから、生徒会室に行こっか」 よくわかんないけど、大丈夫ならいいかな? ボクが頷くと輝くんはボクの手を引いて歩き出した。 ずっと手を繋いだままだったことに気づいて、ドキドキした。

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