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第8話 兄さん達のとある事情・2

「遊廓にいると煙草を吸うようになるんですか?」  不思議で堪らず質問攻めする俺を、鬱陶しそうに風雅さんが見ている。 「そうとは限らねえが、それも理由の一つだと思うぜ。俺達って張見世で客を待つだろ。その時に吸ってた自分の煙草を、格子の隙間から客に『どうぞ』って吸わせるんだ。そうすると心臓撃ち抜かれた客がそのまま揚がってくれる場合もある」  へえぇ。知らなかった。 「だがっ! 俺の場合はっ!」  突然、小椿さんが拳を握って叫んだ。 「客の精子の匂いを口から追い出したくて煙草吸いまくってたら、いつの間にか日常でも吸うようになっちまった!」 「ああああぁ! それ!」 「それ分かる! それだわ!」  他の兄さん達が一斉に叫び出し、俺はますます混乱してしまった。 「ど、どういうことですか? お客さんの、その……精子……が、口の中にって? 何でそんなことにっ?」  風雅さんが目を細め、俺の顔に煙を吹きかける。 「……お前、しゃくったことねえのか」 「しゃくる?」 「尺八のことだ」 「えっと……」  尺八って、太い笛みたいなやつだ。凄く良い音が出るやつ。踊りの稽古の時に別の部屋でそれを吹いていた人がいたから、名前は知っている。 「知ってます、尺八。俺は吹いたことないですけど」 「そっちじゃねえぇーっ。この精神的おぼこがっ!」  風雅さんに怒鳴られ硬直する俺を、周りの兄さん達が大笑いしている。 「いいか、俺達の世界で尺八っていったらなぁ……」 「ちょっと待った。色っぽい話なら俺も混ぜてよ、風雅」  股を開いて座ったまま声を張り上げた雷童さんに、風雅さんがぼそりと呟いた。 「出た、精神的色狂い……」  煙草を吸い終えた兄さん達のうち牡丹さんと小椿さんが残ってくれて、食堂の薄い座布団に正座をした俺は兄さん達から「尺八」について教えてもらうことになった。 「早い話が、殿方のアレを口でする、ってことだよね」  雷童さんが長机に身を乗り出し、片手の指を丸めて何かを掴む形を作った。 「アレを、口で……? する……?」 「駄目だ雷童。コイツには遠回しな言い方じゃ通用しねえ」  風雅さんが呆れたように溜息をつき、俺の目を見てはっきりと言う。 「あのなぁ、尺八ってのは、男の×××を舐めたりしゃぶったり吸ったりすることだよ」 「えええぇっ、──あ、あれか。……分かりました……それなら知ってました」 「だろ? 色んな呼び方はあるけどよ。ここじゃあ必須項目みてえなモンだ。俺達は客のソレを咥えてた時の嫌な感じを、煙草の匂いで消してるって訳だ」 「なるほど。……でも天凱さんは、煙草吸わないなぁ」  これまでを思い出してみても、天凱さんは俺を抱いた後で一度も煙草を吸ったことがない。元々吸わない人なのかもしれないけれど、それなら俺の「それ」を「そうした」後、どんな風に口の中の不快感を消しているんだろう。

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