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第9話 天凱の気持ち・3
*
「くくく……」
「……あははは!」
寿輪楼に着いてからも笑いが止まらず、俺達は裸で抱き合ったまま布団の上を転げ回った。
あの後。二人で乗ったボートの中に勢いよく跳ねた鯉が飛び込んできて、動転した俺が立ち上がって体勢を崩し、池にどぼんと落ちてしまったのだ。俺が泳げないのに気付いた天凱さんがすぐさま池に飛び込んでくれて、特に怪我も何もなかったのだが……
「ず、ずぶ濡れでどうされたんですかっ! お二人共すぐにキモノを脱いで下さいっ! それからお風呂に──」
淡雪の慌てた姿に、大笑いしている風雅さんに、呆れた顔のお義父さんに。……何もかもが可笑しくて、俺も天凱さんも息が止まりそうなほど笑いながら互いを強く抱きしめ合った。
「だ、大丈夫か彰星」
「平気です。て、天凱さんは?」
「平気だ!」
お風呂が沸くのを待っている間、俺達はずっと笑っていた。
こんな時間がずっと続けば良い。
俺は幸せだった。
「勇蔵の親父さんは警察官でなあ。あいつも何かと厳しく育てられたもんで、彰星にあんなこと言ったのさ。警察の接待をしてる娼楼もあるのになぁ」
「そうなんですか……」
遊郭はどこも警察のお陰で成り立っている。当然、男遊やお女郎が初見世に出る前には、一人一人警察に届け出て許可をもらわなければならない。
国が娼楼の営業を「公娼 」として認めているのは、「私娼 」という個人の売春、そこから広がる性病や犯罪を徹底的に禁止するためだ。
遊廓と警察は切っても切れない間柄。それと同時に、決して逆らってはならない相手でもある。
「………」
「大丈夫、大丈夫。勇蔵は昔から商売がしたくて警察になる気はないらしいし、根は良い奴だから、彰星が不安になることは何もねえ」
冷えた俺の肩を撫でながら、天凱さんが優しく微笑んでくれた。
「大学時代の、天凱さんの話が聞きたいです」
「そんな大した思い出はねえなぁ。俺は親父の店を継ぐのが決まってたし、ちょっとだけ語学を勉強して、菓子作りの資格を取って、後は遊んでたしな」
「天凱さんのお菓子がお店に並ぶの、楽しみにしてます」
「ああ。まだまだ親父には敵わねえけど、これでも毎日修行してるぞ。俺が店主になったら彰星に一番に新商品を食わせてやるからな」
「やった!」
そうして俺達はまた抱き合い、鼻先をくっつけ合って笑い合った。
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