101 / 103
第14話 三千世界の彼方まで・3
「んっ、……ん」
「……そんなに食い付かれると、この寒い中歯止めが利かなくなるぞ」
「は、……ぁ、天凱さんが、……抱きしめてくれるなら……」
「彰星」
流石に急ぎ過ぎかなと思って、俺は少しだけ照れ臭くなり唇を噛んだ。
だけど。
「念のために、お袋から前帯の結び方を教わっておいて良かったぜ」
「そ、そこまで言ってませんけどっ……!」
解いた帯を傍らに置いて、天凱さんが俺を自分の膝の上へ向かい合うように座らせた。
「キモノと襟巻きを羽織ってろ。それならまだ寒くねえだろ」
「は、はい……」
男遊はキモノの下に褌や下着を付けず、お女郎さんと同じように腰巻を付けている。今は女性も下着を穿く時代だけど、前帯同様、これも娼楼の者である証だ。
その腰巻を天凱さんが捲ると、寒さに縮こまった俺のペニスが露出した。
「……更に可愛いことになってるな、彰星」
「や、やめてくださいっ……! もう! ……あっ」
だけどそこに天凱さんの指が絡めば、あっという間に熱くなる。擦られるほどに芯を持って、いつものような上向きの形になる。
「あっ、あ……そ、外で、こんな……」
「誰も来ねえさ。声、我慢するなよ」
「恥ずかし、ですっ……」
「なら、このまま見世に行くか?」
「い、嫌ですっ」
ぎゅっと天凱さんにしがみ付き、駄々っ子のように首を振る。
「お願いします……ここで」
「……やっぱり可愛いな、俺の彰星は」
「あっ、──あ、天凱さんっ……」
体がビクリと震える度、髪飾りの鈴が音を立てた。
胸に唇を寄せてきた天凱さんが俺の乳首を含み、優しく、優しく啄んでくる。こうされるといつも頭の中がとろけ出して、何も考えられなくなってしまう……。
「ふ、あぁ……気持ちいいです、天凱さん……」
「気を外すのは早いぞ、彰星」
今日は洋装姿の天凱さんが、自分で下衣と下着をずらして男の証を露出させる。
「二人一緒に、だろ」
「は、はい……。あっ、……」
俺自身の先走りの体液でそこを充分に湿らせてから、天凱さんが俺の腰を浮かせて屹立の先をあてがった。
「──んっ!」
その瞬間はいつも少しだけ緊張して、だけどとっても幸せな気持ちになる──。
「は、あっ……天凱さん、……奥にっ……」
「この体勢だと、きっちり奥まで届くからな。……ナカはすげえ熱いぜ、彰星」
「ひあっ、……あ、あぁっ……!」
熱くて熱くて火傷しそう。だけど止めて欲しくなくて、俺は天凱さんにしがみつきながら何度も声をあげ泣いた。
「好きです、天凱さんっ……大好き……」
「分かってるさ。俺も大好きだ」
「ずっと、ずっと天凱さんと、一緒に……いたいっ……あぁっ」
「ずっと一緒だろ。俺達はずっと一緒だ、彰星……」
いいえ、とかぶりを振って鼻を啜り、俺は天凱さんを力いっぱい抱きしめる。
「この人生が終わっても、ずっと……永遠に、天凱さんといたいんです。俺が娼楼で過ごす年月を取り返せるくらい、たくさんたくさん……」
上手く言えない俺の告白を、天凱さんは静かに笑って受け止めてくれていた。
「大丈夫だ。この人生が終わって生まれ変わっても、俺は必ずお前を探し出し、会いに行く。……そこはきっと廓も娼楼もない新しい世界で、俺達は普通に出会って、普通に互いを好きになって、また一緒になる」
現世で出会った人、特にこんなに魂が惹かれ合う人とは、前世でも来世でも何かの繋がりを持っているのだと本で読んだことがある。
それは親子だったり兄弟だったり、親友だったり、恋人だったりと、様々な「形」で縁を繋がれるのだそうだ。
だから生まれ変わった新しい世界でも、俺はきっと天凱さんと出会う。
「ずっと一緒だ。──これまでもずっと、一緒だった」
「天凱さん……!」
頬を伝う熱い涙が、天凱さんの優しい指で拭われる。
「……彰星。寒くないか?」
「いいえ。……凄く、凄く……温かいです」
今年最後の夜空。
その下で俺達は一つになって抱き合い、永遠を誓う口付けをした。
ともだちにシェアしよう!