1 / 22
ふたりの関係
俺は相川 悠
20歳の一般的な大学生で、なんだかんだ毎日気楽な日々を過ごしている
ツレとテキトーに遊んだり大学行ったりバイトしたり……で、夜はクラブ
一人暮らしだから夜はつまんないじゃん?
クラブ行きゃ座ってるだけで女が寄ってくるから、そのなかで一番良いやつを選ぶ
だいたいは一夜限りだけど、身体の相性が良かったらセフレに昇格する
佐倉 湊人 もその中の一人だ
半年前にクラブで知り合った湊人は、いくつか年上のサラリーマン兼臨時バーテンダー
名前で分かると思うけど、男
身長も俺と変わらないし細身ではあるけれどなんていうか……普通の、男
でも顔立ちはとても整っていて、そこらへんの女よりも綺麗で可愛かった。
だから臨時でクラブのバーカウンターを手伝っていた湊人を、俺から誘ったのがーーー半年前
酔った勢いもあったけど、こいつなら男でも抱けそうだと思った(俺はゲイじゃない)
実際抱けたし、気持ち良かった。
男相手が初めてだから刺激的だったのもあるだろうけど、多分俺たちは身体の相性がすごく良いんだと思う
初めてなのにうまくできたのは、湊人が経験者だったからだ
彼はゲイで、男に抱かれることに抵抗がないらしい
男同士というのは気楽なもので、面倒なやり取りも必要ない
ヤりたいときにヤるだけ
お互い身体だけだと割り切っているからすごくラクだし、そのうえ湊人はいつ呼び出しても必ず応じてくれる
そんなだから、最近では週3ペースで会っていたりして
今日もそうだ
ちょっとイライラすることがあったから、呼び出してヤッた。
今はベッドで煙草吸いながら、身支度する湊人を眺めているところ
「悠」
「ん〜?」
「煙草は身体に悪いからやめなよ」
「いつもそれ言うね」
「いつも言わせてるんだろ」
シャツのボタンを留めながら湊人が笑う
綺麗なその顔は、笑うと急に愛嬌がでて可愛らしくなるから不思議だ
「悠さ、今日なんかあった?」
「……なんで?」
思わず煙草をくわえたまま聞くと、彼は癖のある笑い声をあげた。
「抱き方ですぐわかるよ。お子様だもんね、悠は」
ーーーそのお子様にすがりついて喘いでたのは誰だよ
「バイトで嫌なことでもあった?また店長に怒られたとか?」
なんでわかるんだろ……
湊人は勘が良いのかよくこういう感じで当てる
だからつい俺も話しちゃうんだよな……愚痴なんて好きじゃないのに
「だってあいつ俺にばっか怒んだもん。ほんとうるせーの」
「怒られるようなことした?」
「してない。女の客に声掛けられたから相手してたら、仕事中に遊ぶなって。でもそれ不可抗力じゃない?」
「あぁ、そうかもね」
軽く微笑みながら香水をふった湊人
清潔感のある甘い香りが部屋にひろがった。
この香水は嫌いじゃないけど……これをつけるのはいつも湊人が帰るときだから、少し複雑な気分
煙草を消して改めて彼を見やれば、やっぱり美人だなんて思う
いや、“かっこいい”と表現するべきだろうか
でも涼しげなのに優しい目元とか、ぷっくりした紅い唇とか……うん、やっぱり“美人”でいいな
抱いてるときは異常にエロいし。
「湊人、もう帰んの?」
もっかいヤんない?
なんて言う隙もなく、湊人はコートを羽織った。
湊人は絶対に泊まらない
この半年間、一度もない
それこそ初めての日の夜も、どんなに激しく抱いた日もーーーそれが、自分の中のルールらしい
案の定湊人は軽く笑っただけで、携帯をポケットに入れてこちらを向いた。
「悠」
「ん?」
「そういうの、彼女にもちゃんと言ってる?」
「……もう帰んのって?」
「違う。愚痴とか」
俺には『彼女』がいる
同じ大学に通うひとつ年下の綾香
まぁ彼女といってもそんな特別なわけじゃなくて、ただ出会いがクラブじゃないってことくらい
「は?言うわけないじゃん。必要ない」
「ふぅん」
あれ?
なんか呆れられた感じ?
ぱちくりとまばたく俺に、湊人は嘆息しながら近付いてきた。
「もっといろんな顔見せたほうがいいよ?きっと喜ぶと思うな。今度からはさ、何かあったら俺じゃなくて彼女を呼びなよ」
なにそれ
別に湊人に関係ないし。
……だいたいそれって、もう呼ぶなってこと?
黙り込んだ俺を苦笑して見下ろす湊人
その左耳できらりと光ったのは、いつもつけているブルーストーンのピアスだ
サファイアに似ているけれど、タンザナイトとかいう12月の誕生石らしい
確か年上の『彼氏』からのプレゼントだっけ
興味ないからあんまりちゃんと聞いたことはないけど。
なんてぼんやりと考えていたら、不意に屈んだ湊人の顔が迫って
ふわりとーーー唇が柔く重なった。
帰り際にいつも湊人からするそれは、初めての日からずっと変わらない
これもきっと、自分の中のルールなんだろう
「またね」
淡い香りと微笑みを残し、湊人は帰って行った。
これが、俺と湊人の関係
ずっと、変わらない関係ーーー
ともだちにシェアしよう!