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第1章 気になる新人3
「見てくれの良さがアダとなってる兵藤に、俺の顔のことをとやかく言われたくないね」
その言葉に、兵藤の笑顔が一瞬で消え失せた。
メンタルがブルー色に染まってるせいで、しなくていい争いをこのアホと繰り広げるだけ無駄だというのが、頭では分かっているのに、どうにも虫の居所が悪いため、不機嫌をキープせざるを得ない。
「俺なんかよりも見てくれのええヤツ、新人の中におったやろ?」
イライラついでに言わなくていいであろうセリフが、自然と口をついて出てしまい、唇に挟んでいるタバコを、きゅっと噛みしめた。
「はあぁ? そんな絶世の美形がいたっけか!? それなりに可愛いコしか、俺の目に入らなかったからさ」
飯島は美味しそうにタバコを吸い終え、備え付けの灰皿に押し付けてから、ゆっくり腰を上げる。何とも言えない嫌な視線をやり過ごすべく、兵藤はそっぽを向いた。
「……兵藤もしかして、その男に惚れちまったとか?」
「惚れっ、そんなんあるワケないやろ!」
絶対にありもしないことを飯島に言われたせいで、ちょっとしか吸ってなかったタバコを、勢いに任せて灰皿に押し付けてしまった。
幸いなことに他には誰もいなかったから良かったものの、こんな会話を他の社員が聞いたりしたら、あっという間に尾ひれがついた挙句に、兵藤ホモ語録のひとつとして、噂されることが想像できてしまう。
「そうなのか? だってよ、珍しいって思ったんだ。普段俺の容姿をこき下ろすお前の口から、見てくれのええヤツなんて単語が出てくるのが、すっげぇと思ってさ」
「そこまで、見てくれのええヤツでもないけどな。普通より、ちょっとだけええ感じっていうか」
飯島の抱いた疑問は確実に、自分の心を揺さぶるものだった。今までこんなふうに、誰かの容姿を褒めるなんてことをしなかったから、尚更だった。
「兵藤は外見だけがイケメンだからな。お前が褒めたソイツ、きっと中身もイケメンなんだろうよ。こりゃ春が楽しみだねぇ」
実に可笑しいと言わんばかりに、ゲラゲラ高笑いして出て行った飯島。その大きな背中に向かって、反論する余裕はなかった。
「……否定せんわ。俺はお前の言う通り、外面だけの男だから」
誰だってむやみに、人には嫌われたくはない。だから優しく接していただけなのに、それが許せないと、今まで付き合ってきた彼女に言われた。それを踏まえて距離を置いた態度をとったら、それは思わせぶりだと言われる始末。
(――だったら、どないな態度をすればええんや!?)
「もう恋なんてせぇへん。仕事だけに生きる……」
ままならない恋愛をして自身の神経を無駄にすり減らすよりも、仕事でストレスを抱えている方が数倍マシだと、兵藤は苛立ちながら喫煙室を後にした。
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