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早朝の……夢?
今日僕はひとつオトナへの階段を上った。
日曜日、早朝4時半。家族の皆はまだ夢の中のこの時間に、僕はひとり洗面所に立っている。洗面所に立って……パンツの手洗い中だ。
どんな夢を見たのかは全く思い出せない。股間の気持ち悪さで目が覚めたらこんな状態だった。
男なら誰でもいつかは経験することだと思う。
恥ずかしいけど、これもオトナへの道ってことだと思う……たぶん。
僕自身は初めての経験で一瞬頭が真っ白になったけど、とにかく証拠隠滅ってことで手洗い中だ。なるべく静かに石鹸で洗ってゆすいで……あ、脱水どうしよう?
洗濯機を使いたかったが、音でバレると困るので絞ってお終いにした。それから部屋へ戻り、カーテンレールにハンガーにかけたパンツを干しておいた。本当は外へ干したかったけれど、パンツ1枚だけだとその理由がバレバレで恥ずかしかったからだ。
でもここで問題がひとつ、手絞りだから干したパンツから水が落ちてくる。仕方ないのでもう一度洗面所へ行ってバケツを持ってきた。これで落ちた水はバケツが受け止めてくれる。僕はそれに満足してもう一度眠ることにした。
「ジュンヤー、起きろー、おいジュンヤ! もう昼だぜー」
「ぐへっ!」
突然腹に衝撃を受けて僕は目を覚ました。目の前には幼馴染のアツシの顔。
「もうちょっと優しく起こしてよー。それに重い」
「優しく起こしたさ、最初はな。でもジュンヤが起きないんだもん」
「そこを根気良く起こすのが優しさじゃないの?」
「ぬるい起こし方じゃ絶対起きないじゃん。それに一気に起こす方が優しいの」
膨れた僕にアツシは平然とそんなことを言う。アツシは僕の2つ上だけど幼馴染だ。小さい頃は同じくらいの身長だったが今では見上げるくらいになっていた。今のアツシの身長は来年の僕の目標だ。かっこ良さってのには身長は不可欠だと思うんだ。
「それで?」
「たまたま今日ヒマだったからさぁ、遊びに来てやったんじゃん」
「でも僕は睡眠に忙しい」
「あんまり寝すぎても身長伸びないぞ」
「えっ、ホント?」
「冗談だけどな」
しれっとそんなことを言う。どうせ僕の背は低い。でも来年か再来年はアツシを追い抜く予定だ。そしたら余裕でアツシを見下ろしてやるんだ。
「ところでさぁ、ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど……」
プンスカ言ってるボクに、アツシはニヤニヤしながら聞いてきた。
幼馴染だもん、こんなときのアツシは要注意だ。
「あそこに干してるパンツって何? しかも下にバケツって見た目まぬけなんだけど」
「あっ、み、見ないでっ!」
慌ててベッドから飛び起きてパンツの方へ向かった。でもそれはまだちゃんと乾いてなくて、微妙に湿っていた。こんなもの見られて恥ずかしすぎる。
「そこに干してるってことはさぁ……、ジュンヤ君もそんな年になったんだねぇ」
「うぅぅ……」
こんなとき年上ってずるい。何その余裕のニヤニヤ笑い。
「どんなエッチな夢見てたん?」
「お、覚えてない」
「あらそれは残念」
そう言って笑ったアツシは、それから少しして帰って行った。いったい何しに来たんだろう?
ところが夜になってアツシはまたやってきた。マジメに宿題をやってた僕は、アツシが部屋に入ってきたのに全く気がつかなかった。
「ジューンヤ♪」
「うわっ!」
机に向かっていた僕に突然背中から覆いかぶさり、耳元で僕の名前を囁いた。ものすごく心臓に悪い。思わず振り回した肘がアツシの鳩尾に入ったのは、僕のせいじゃないはずだ。
「痛ぇ……」
「アツシが突然来るからだよ。ノックくらいしてよ。って言うか、何で他人 んちに勝手に入って来るんだよ」
耳元で囁かれたアツシの声が妙に色っぽくて、僕の心臓はバクバクだ。
「おばさんにはちゃんと挨拶したよ。そんなムクれるなって。明日も休みだから久々に泊まりに来てやったんじゃん」
「僕宿題やってるんだけど」
「宿題は俺がいても出来るだろ」
僕がムスッとして言ってもアツシは全然気にしない。いつもこんな調子、マイペースな奴だ。泊まりに来るなら、昼に来たときにそう言ってくれたら良かったのに。そしたらこんなに驚くこともなかったはずだ。
「ふくれっ面で睨んでも可愛いだけだぞ。とりあえず宿題終わらせなよ」
「可愛い言うな!」
僕が文句を言っても、やっぱりアツシは気にしない。そして僕のベッドに寝転がって、持ってきたマンガを読み始めた。
宿題が終わった後は、アツシの持ってきたマンガを読ませてもらったり、ふたりでゲームで遊んだりした。
寝るときは僕がベッドでアツシは隣に敷いた布団だった。いつもはじゃんけんで負けた方が布団なんだが、珍しく今夜はアツシが譲ってくれた。
翌朝早朝、僕はものすごいエッチな気分で目が覚めた。ものすごくヤラシイ夢を見ていたような気がする。そして出した後の開放感があるような気がする。
それってもしかして2日連続の……。
「あ、起きたんだ。おはよジュンヤ」
「――ッ! な……」
僕の足もとの方から聞こえてきたアツシの声にふと見ると、そこには信じられないような光景が広がっていた。掛け布団が剥がされていて、パジャマの下とパンツが脱がされて下半身が剥き出しで、そしてあろうことに僕のちんちんはアツシに握られていて、その手には白いものがついていた。
あまりの衝撃に僕は言葉が出てこない。固まったまま目を見開いてアツシの方を見ていた。そしてアツシはそんな僕の目の前で、汚れた手をペロリと舐めた。
「いっぱい出たな。へぇ、これがジュンヤの味かぁ」
「なっ、なっ、なっ……」
「でも良かったな。今日はパンツは汚れなかったぜ」
衝撃的過ぎる今の状況はどうやら僕のキャパを超えてたみたいで、そっから先の記憶は無い。
「ちょっ、そこで寝るって無いだろ」
焦ったアツシの声が聞こえたような気もするがそれも定かじゃない。気のせいかもしれない。いやきっと気のせいだ。
次に目が覚めたとき僕は普通に寝ていて、ちゃんとパンツもパジャマのズボンも履いていて下半身剥き出しではなかった。だからきっと早朝のアレは僕の夢だったんだ。ちょっと…...かなりヤラシイ夢だったから心配になったが、パンツも濡れてなかったことに安心した。
ただ不思議なのは、ベッド脇に敷いた布団で寝てたはずのアツシが、何故か僕のベッドで一緒に寝てたってことだ。夜中に潜り込んだんだろうか、でも何で? しかも僕の首の下にあるゴツゴツしたのは枕じゃないような気がする。
「あ、ジュンヤ起きたんだ。おはよー」
蕩けるようなアツシの笑顔に、僕はポカンを口を開けて見つめてしまった。アツシとは幼馴染で小さい頃から知ってるが、その笑顔は僕が今まで一度も見たことが無い笑顔だった。
ドキンと一拍心臓が跳ねる。それからまた頭に浮かぶ早朝の夢。
早朝の……夢?
ものすごく聞きたいが、聞くのもものすごく怖い。
僕はどうしたら良いんだろうか?
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