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第六章・6
「てめぇ、本城組のモンか!?」
「本城組の、難波だ。覚えておいて損はないぞ」
多勢に無勢で、大倉のチンピラたちは威勢が良かった。
最初のうちは。
一斉に、征生に殴りかかる男たち。
だが征生は、それを流麗な動きでかわす。
まるで、アウトボクサーのステップのような身軽さで、拳を、蹴りを、頭突きをよける。
そして、かわすたびに数発殴りつけて行くのだ。
大ぶりのエングレーヴド・リングをはめた、拳で。
楓は、それを半ば放心して見ていた。
男たちに抑え込まれた恐怖が、体を支配していた。
征生が助けに来てくれた救いが、心を支配していた。
やがて4人は地面に倒れて動かなくなった。
うめき声が、そこここから聞こえる。
だが、征生はそのうちの一人に馬乗りになって執拗に殴り続けていた。
「ほら、立てぇ! まだ終わっちゃいないぞ!」
荒っぽい征生の声に、楓はようやく正気に戻った。
急いで立ち上がり、征生の腕にすがった。
「征生さん、ダメ! それ以上やったら、死んじゃう!」
「楓……」
はぁはぁと息の荒い征生の眼は、鋭かった。
まだ知り合って間もない頃の、眼光だった。
ヤクザの眼だった。
「……無事か?」
「僕は大丈夫。だから、もうやめてください!」
二人は再び車に乗り込んだが、終始無言だった。
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