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第七章・6

「この度の大翔の成績は、ひとえに先生のおかげです。改めて、御礼をいいます」 「いえ、その言葉は合格発表の時まで、とっておいてください」 「これからの話は、先生だけに打ち明けることです」 「はい」  不安を覚えながら、楓は組長の話に耳を傾けた。 「県南の岬付近に、本城建設がリゾートホテルを建築中ということは、ご存じですな?」 「はい。あの景勝地に」  実は、と父親は煙草に火をつけた。 「大翔に、あそこを任せようと思っております。堅気として、綺麗な仕事をさせたいと」 「え?」 「大翔には、跡は継がせません。本城組は、私の代で終いにします」  楓は、眉をひそめた。  こんな話、僕みたいな人間にしてもいいのかな。  ただの大学生の、アルバイトの僕なんかに。 「大学を卒業したら、ホテルをオープンさせます」 「待ってください。卒業したての大翔くんにホテル経営を任せるのは、あまりに酷ではありませんか?」 「難波を、右腕に付けようと思っております」  楓は、息を呑んだ。  征生さんを、大翔くんの側近に!? 「そこで、先生にお願いがあります」  組長の煙草の灰が、静かに落ちた。

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