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LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第15話

「お前らぁ!」 「でも唯哉、どうする? 『このまま放置』なんてしないよな?」 「当たり前だろ。相手が誰かはっきりしていないから其処からハッキリさせよう」 「了解。なら俺は誰か他に見てないか聞いとく」 「頼んだ」  衝動のまま二人に抱き着こうとする悠栖に、英彰はその頭を鷲掴んで抱擁を拒否しながら唯哉と話を進める。  唯哉と英彰はどうやら悠栖のペットボトルを奪った連中を特定しようとしているみたいだ。  悠栖はそれに慌ててそんなことをしなくていいと訴える。  今回の被害はペットボトルだけ。次から気を付ければいいだけの事だから犯人捜しをする必要はない。と。  だがそんな悠栖に二人はまた声を合わせて「却下」と言ってきて。 「こういうことは初動が肝心なんだ。今見過ごしたら、増長させるだけだぞ」 「俺も英彰と同じ意見だ。こういう事をするのが今回の連中だけとは限らないしな」  身の安全のために犯人も予備軍もまとめて今絞めておかないと。  そう言った唯哉と英彰の顔は何処までも真剣で、大袈裟だと笑っていた悠栖ですら気圧されて笑みを引きつらせるほど。  しかし、二人が今夜からの動きを打ち合わせしているのを聞いたら蚊帳の外に居てばかりもいられない。 「なぁ、なんか手馴れてねぇ?」  次の休憩時間に他の部員に聞き込みを行い、それを基に寮に帰ったら容疑者を絞り込む。  そんな算段を打ち合わせする二人に、悠栖は初めてにしてはいやに手際が良いと感じて尋ねた。前にもこういうことあったのか? と。  すると悠栖の疑問に二人は一瞬動きを止め、お互いに視線を向ける。明らかに不自然なその様子に、悠栖は眉を顰めた。 「お前らまさか……」 「いや、別に今まで悠栖に内緒でこういう連中を絞めたりしてないからな?」 「! ばっ、唯哉! 誤魔化し方下手すぎだぞっ!!」 「あっ……」  ジトっと疑いの目を向ければ自滅する唯哉と英彰。  暴露したのは唯哉だが、それを肯定したのは英彰。  二人はこれは違うんだと詰め寄ってくるのだが、何が違うんだと凄んでやれば、それ以上言い訳できないと悟ったのだろう。  大人しく頭を下げて秘密にしていた事と勝手な判断で動いていた事を謝ってきた。  自分よりもでかい図体の男二人がまるで飼い主に叱られた大型犬のようにシュンとする様はなんだか可愛くて、悠栖は仕方ないなと息を吐き、二人に顔を上げるよう促した。 「別に謝らなくていいって。チカとヒデの事だから、俺のことを考えてくれてたんだろ? おかげで今まで無事だったんだろうし、むしろありがとうな!」 「悠栖っ……」 「お前って本当、ムカつく奴だな。ちょっとぐらい嫌な奴になってくれないと諦められないだろうが」  自分を想って行動してくれた二人に感謝こそすれ怒ることなどない。  そう言って笑えば唯哉は言葉を失って、英彰は困ったように笑うと悠栖の肩を叩いて隣を通り過ぎて先を歩き出してしまった。 「ひ、ヒデっ!」 「オラ、行くぞ! 休憩終わるまでに戻らないとペナルティ追加されるぞ」  忘れていたわけじゃなかったけど、英彰はまだ自分を想ってくれている。  それなのに自分は昔のように親友として近しい距離で英彰に接してしまった。  きっと英彰にとっては生殺しのような状態だろう。  悠栖は間違えてやってしまったと顔を青くして英彰に謝ろうとする。  だが、英彰は謝ろうとした悠栖に向かって笑った。  その笑い顔に悠栖は『分かってるから大丈夫だ』と言われた気がした。 (やっぱ俺、ヒデが大事だ……。これからもずっと、ヒデの友達でいたい……) 「悠栖、行くぞ」 「チカ……。おう、分かったっ……!」  唯哉に促されるまま英彰を追いかけ歩き出す悠栖は、もう二度と英彰から『縁を切る』なんて辛い言葉を言われたくないと思った。言わせたくないと思った。  英彰は意志を貫く強さを持っている男で、そういうところも密かに憧れていた。  でも、そんな英彰が、一度決めたことは何があっても貫き通す英彰が、今回だけはその信念を曲げ、もう一度友人として自分の傍に戻ってきてくれた。  『自分を好きになれ』とか、『意識しろ』とか、そんな言葉ではなく、『友人として』傍に居たいと、居て欲しいと言ってくれた。  そんな英彰だからこそ、二度と失いたくないと思った。ずっと親友として傍に居て欲しいと思った。それが英彰にとって辛いことだとは分かっているが、それでも―――。 「あれ? なぁ、アレって姫神じゃないか?」 「え……?」  自分の我儘は親友を苦しめるだけかもしれない。  そう悠栖が二人に気づかれないように落ち込んでいたら、隣を歩く唯哉が声を上げる。  その声に悠栖が視線を唯哉に向ければ、唯哉は『見てみろ』と言いたげに部室棟の二階の廊下を指さしていた。

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