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LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第19話
(らしくないことなんか俺にだって分かってるよっ。でも仕方ねぇーじゃん。全然テンション上がらねぇーんだよ)
自分をじっと見ている視線だけで、いつもの下手くそで雑な食レポはどうしたの? と声が聞こえてくる。
でも、『美味い』とか『次は無いな』とか聞かれてもいないのに食レポもどきをして騒ぐ気分じゃない。
きっと目を合わせたら異変の理由を問いただされるに決まっている。
だから悠栖は朋喜と、そして慶史と絶対に目を合わさないように注意した。
しかしそんな悠栖の考えなど二人にはお見通しのようで、タイミングを見計らったかのように一瞬静かになった談笑の場で脱力を誘う音が鳴り響いた。
チャットアプリにメッセージが届いたことを知らせるその音に、悠栖は嫌な予感がした。
朋喜からはまだ視線を感じていたのだが、そういえば慶史がこちらを見ている感じは無くなっていた。
悠栖は反射的に携帯に手を伸ばしていたがすぐにそれを引っ込めてメッセージの確認を後回しにする。
しかし、それで見逃してくれる程慶史は優しい男じゃない。
「悠栖、今携帯鳴ってなかった?」
「! さ、さぁ? 慶史の気のせいだろ?」
綺麗な笑顔でエグいやり方をするものだ。
悠栖はなんとかやり過ごそうと試みるが、「そう? でも一応確認したら?」なんて言って身を乗り出すと、わざわざ机に裏返しで置いてある悠栖の携帯を掴み、差し出してきた。
「ほら、せっかく俺がこうして取ってやったんだから、な?」
有無を言わさぬ圧を放つ笑顔は、恐怖すら感じさせる。
悠栖は、これはもう諦めるしかないと内心項垂れ、空笑いを浮かべて礼を告げると、慶史の手から携帯を奪い取った。
(さっきの、絶体慶史からだろ)
そうじゃなければ辻褄が合わない態度。
正直、アプリを起動してメッセージを見るのが怖いから、見た振りをしようかと考える。
だが、自分は慶史の掌で踊っている道化師だったようで、悪知恵を働かせてやり過ごす事を考えた瞬間、「悠栖」と慶史から名前を呼ばれた。
(『ちゃんと見ろよ』ってことかよ)
顔を上げたらこれまた綺麗すぎる笑顔を見せる慶史。
きっと他の生徒なら慶史のこの笑顔に色めき立っていただろう。『天使の微笑みだ!』とか頭が悪いことを叫んで疑似恋愛の熱を上げたところまで想像できてしまったから。
だが悠栖は上っ面の友人ではないから、慶史の笑顔の恐ろしさを知っている。
もし今慶史に逆らったら、今後自分がどんなに困っていようとも慶史は手を差し伸べてはくれないだろう。
何故なら、慶史はどうしてそんなに歪んでしまったのかと思うほど他人を信用しないから。
そして、人間の血が通っているのかと思うほど簡単に他者を切り捨てると知っているから。
いや、流石に今回のコレで友人関係が破綻するとは思っていないが、それでも今慶史の機嫌が悪いことは変わらない。
だからこれ以上神経を逆撫でするような真似はしたくない。
悠栖はささやかな抵抗すら諦め、メッセージアプリを起動した。
何が送られているのやら……と戦々恐々としながら無駄なあがきと知りながら薄目でメッセージを眺めれば、朋喜からは「顔」と突っ込みが入る。
(うるせぇ! 天使は天使でも『堕天使』に絡まれてるんだぞ! まともに見たら石になっちまうだろうが!)
きっと今悠栖が心の中で思った事を口に出していたら、『キリスト教とギリシャ神話が混ざってる』と突っ込まれていただろう。
だが幸いにも声に出していなかったから『ミッション系の学校に通っているのに』と呆れられることは免れた。
まぁ間違いが正される事がないから悠栖が正しく理解するのはまだ先の話になりそうだが。
薄目のせいで視界はぼんやりしていて文字を読むのは困難を極めた。
すると、もたもたしている自分に痺れを切らしたのか机の下から一撃が入る。
悠栖の「いてぇ!」という叫び声と共にガタンと揺れる机。
こっちの事など気にも留めずに楽しそうに那鳥に話しかけていた唯哉も、それには流石に視線を向けてきて、「どうかしたのか?」と不思議そうな顔をしている。
(どうもしてねぇよっ! くそっ! 慶史の奴、結構本気で蹴りやがったな……)
サッカー部の軸足を蹴るなんてそのご自慢の顔が変形する勢いで殴られても文句は言えないぞ?
なんて心の中で憤慨するも、口に出せないところが悠栖らしい。
悶絶しながらも心配そうな友人達に「なんでもない……」と空元気を装って、目だけで慶史に『いてぇぞバカ!』と訴えた。
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