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LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第23話

 今日は朝から嫌な予感が付きまとう日だった。  特に何かあったわけでもないのに心がザワザワしてずっと落ち着かなくて、まるで台風前の空のように不安定な心は悠栖を不安に掻き立てた。  神経はたわむことなく張りつめられてしまって、良くない事が起こるかもしれないと怯えさせた。  こういう時は不安も何もかも口に出してスッキリするのが一番。と、いつもならそんな考えに行きつく悠栖だったが、今回のコレはあまりにも漠然としていて、かつ全く根拠のない恐怖を覚えさせるものだったから誰かに相談するのは流石に躊躇われた。  何も起こりませんようにと祈りながら過ごす一日はとても長く感じ、悠栖を蝕む原因不明の不安感は何故か休み時間の度に彼の心に深く浸食してきた。  蓄積されてゆくダメージに心は疲弊させられ、午後の授業に差し掛かる頃には脳が限界だとシグナルを発してしまい、悠栖の脳から意識を遮断し、感じることも考えることも放棄させた。  つまるところ授業中に居眠りをしてしまったのだ。  これまで興味がなくとも形だけでも授業に参加するスタンスをとってきた悠栖。それは教師に対する学生のせめてもの誠意だと信じていたから。  だから、たとえ授業内容を全く聞いていなくとも今まで意識は保ってきた。  だが今日は『寝てはダメだ』と自分を制する力が湧いてこず、教師に喧嘩を売るように机に突っ伏して眠りこけてしまった。  幸いな事に注意をされることはなかったが、授業が終わり気怠い身体で部活に向かおうとしていた自分に『らしくない』と心配して声を掛けてきた友人達から『先生が地味にショックを受けていた』と寝ている最中の話を聞かされたら、罪悪感まで心にプラスされて、参った。  こんな状態で部活に顔を出して怪我をしないか正直不安だったが、身体を動かしている間は余計な事を考えずにすんでむしろ良いリフレッシュになった。  そういえば以前慶史だったか朋喜だったかが言っていた。『難しい事を考えすぎてしまう時はストレッチや軽い運動で頭と身体のバランスを整えた方が良い』と。  悠栖は物知りな友人達の言った通りだと納得。  思い返せばここ最近気を揉むことが多かった気がする。  普段なら考えたりしない事を何時間も費やして考えてしまったこともあり、きっとそれらのせいでちょっと変になっていたんだと結論付けることができた。  原因が分かれば、安心する。  悠栖はなんとか平穏に一日を終えることができそうだと喜んだ。  しかし、そんな悠栖が部活を終えて寮へ向かう帰り道、事態は全く想像していない方向へ急変した。 「なぁ、なんか今日変じゃねぇ?」  夏が近づき陽が長くなったとはいえ部活の後に自主練のために居残り、更に正門が閉まるギリギリまで他愛ない話をしながら帰り支度をしていたら、空はもう闇に覆われてしまっていた。  急いで帰らないと夕食を食いっぱぐれると帰路を急ぐのはいつもの事だが、正門をくぐった直後に神妙な顔で英彰が尋ねてきた。  足を止める英彰に一日中妙な不安感に襲われていた悠栖はどうして気付かれたのかと驚きを隠せない。  しかし、思わず足を止めて英彰を振り返れば、当の英彰は自分ではなく唯哉を見据えていて、どうやら先の言葉はもう一人の親友に宛てられたもののようだ。  気づかれていなかったとホッと胸を撫で下ろす悠栖。  ほんのちょっとだけ気づいてほしかったと思う気持ちもあったが、それはそれということにしておこう。  悠栖は問いただす英彰の視線を黙って受け止める唯哉の反応を伺った。  英彰が言ったように、確かに今日の唯哉の様子はいつもと違っていた。  言い知れぬ不安のせいで心此処に在らずだった悠栖ですら分かるぐらいなのだから、英彰からすればそれはあまりにも分かりやすい『異変』だったのだろう。 「やっぱり分かるか……?」 「当たり前だろうが。練習とはいえ試合中に何回呆けてたと思ってんだよ。ボーっと突っ立てるだけのゴールキーパーなんざ居る意味ねぇだろうが」  おかげで試合は惨敗。  負けたチームにはペナルティとしてグランド全力ダッシュが課せられていたため、英彰は「何回ダッシュさせられたと思ってるんだ」と肩を竦ませた。 「はは……。まぁそうだな。悪かったよ」 「悪いと思ってるならそのシケた面どうにかしろよ」 「ヒデ、言葉選びわりぃぞ」  唯哉を心配していることは分かっているが、もう少し言い方を考えた方が良いと思う。  唯哉は温厚な性格だから怒らないだろうが、相手が変われば『放っておけ!』と意地になりかねない。  むしろ自分が唯哉の立場なら絶対にムッとしていたと思う。  ペナルティのダッシュで一〇回近くグランドを往復させられた英彰の苛立ちは分かるが、試合に負けた回数が多いのは唯哉だけのせいではないはずだ。  勝てなかったからといって八つ当たりをするのは如何なものかと悠栖は思うのだ。  しかし唯哉を庇って英彰を窘める悠栖を宥めるのは庇われている唯哉本人で、「英彰はちゃんと分かってるから」と苦笑いを浮かべていた。  唯哉は一体何を『分かっている』と言っているのだろう?

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