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LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第42話
(とりあえずチカの部屋まできたはいいけど、どうすりゃいいんだろう……)
唯哉の部屋の前に立つ悠栖はドアをノックをしようとするも出てきた唯哉に自分は何を言えばいいのか分からず、手を上げたり下げたりしていた。
傍から見ると不審者にしか見えないだろうその姿に、人が少ない時期でよかったと思ってしまう。
(そもそも俺、チカのこと怒らせたままだよな……?)
謝罪の言葉を拒絶されてから喋っていないのだから間違いない。
唯哉はまだ自分に怒ったままだ。
現実を思い出した悠栖の脳裏に過るのは、唯哉の冷たい視線。
『喋りたくないし顔も見たくない』と言いたげなあの目で『何か用か』と尋ねられたら、はたして自分は言葉を返すことができるだろうか?
(無理。絶対無理)
ただでさえ何を言えばいいか分かっていないのに、こんなのどう考えても無理だ。
悠栖はそう結論付けると今日のところは改めようと部屋に戻ることに決めた。
だが悠栖がその場を立ち去ろうとしたその時、タイミングが良いのか悪いのか、ドアが開いてしまった。
悠栖の眼前に迫ってくる扉は止まることなくぶつかってくれて、顔面を襲う痛みに思わず蹲ってしまった。
「いってぇ……」
「! わ、悪い! 人が居ると思わなくて――――、って、悠栖?」
悶絶していたら、聞こえる声。それは唯哉のもので、本当になんてタイミングなんだと思わずにいられない。
悠栖は驚きを含んだ唯哉の声に痛みを耐えて「よぉ……」と顔を上げ笑いかける。
その笑い顔が引き攣っている気がしたが、これは痛みのせいだと自分を誤魔化した。
「……こんなところで何してるんだ?」
へらっと笑いかける自分に返されるのは、迷惑そうな声。
あからさまに気まずいと物語る態度は悠栖の心を容赦なく抉った。
自分の知る唯哉なら、大丈夫か? とまず相手を心配しただろうに……。
唯哉はまだ怒っている。そう悠栖に分からせるには十分すぎる態度だ。
……いや、怒っているだけではこんな態度にはならない。
唯哉は悠栖の訪問を『迷惑』と捉えたのだろう。
(これ、謝っても許してもらえないレベルじゃね……?)
もうこれ以上友人関係を続けたくないという意志さえ感じて、指先が冷たくなる。
心臓はバクバクと煩いぐらいに鼓動しているのに、血が廻る感じが全くしなかった。
悠栖は唯哉がいなくなる恐怖に目の前が真っ暗になった。
「悠栖? おい、聞いてるのか?」
「! き、聞いてる聞いてる! てか、部屋間違えた!! ヒデの部屋ってこの先だよな!?」
顔を覗き込んでくる唯哉の目を見るのが怖い。
悠栖は数歩後ろに下がると、たまたま通りかかっただけだから! と苦しい言い訳をしながら笑い飛ばした。笑っていないと泣きそうだったから。
「は? 英彰の部屋? お前何しに行くんだ?」
ごめんごめんと謝りながらこの場を立ち去ろうとする悠栖。
だが唯哉は悠栖が立ち去ることすら許してくれない。
距離を詰めるように足を踏み出す唯哉はいとも簡単に悠栖の腕を掴むと、力任せに振り向かせて顔を突き付けていた。
意味を分かってやってるのか? と凄まれては、ますます委縮してしまうというものだ。
「い、『意味』……? なんの……?」
「自分を好きだって言ってる相手の部屋に行く意味、分かってるかって聞いてるんだよ!」
声を荒げる唯哉に悠栖は怯みっぱなし。
狼狽え、何を言っても唯哉を怒らせてしまうと本気で泣きそうになってしまう。
今の言葉は咄嗟に口から出た嘘だったが、『嘘』だと知らない唯哉からすれば自分は英彰の『想い』を知りながらも応える気も無く思わせぶりな態度をとっている最低な奴に思えるだろう。
大事な親友がそんな扱いを受けていれば、誰だって怒るに決まってる。
答えを間違えたことは悠栖にも分かった。
だが、それを反省するよりも先に、英彰が傷つかないように怒る唯哉の中では自分はもう『親友』ではないのだと痛感して、今すぐ感情を切り離さないと涙が零れると思った。
「ご、ごめ……、考え無しだった……」
悠栖は苦笑いを浮かべて謝る。
無理矢理にでも笑っていないと自分はみっともない姿を晒すことになってしまう。
へらへらと笑っていたらそれはそれで唯哉を怒らせそうだと思わなくはなかったが、泣いて喚いて醜態を晒すよりはずっとましだ。
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