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溺れ 乱れ 蜜地獄 6
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初めて珀英と躰を重ねてから、数ヶ月が経っていた。
その間にも、数回セックスをしたけど、とにかく珀英が体力が有り余っているのか、色々激しいので全身筋肉痛になるし、後ろも痛いし、色々問題はあった。
でも、珀英ときちんと『恋人』という形になれたし、珀英も落ち着いたので、これで良かったとは思っている。
オレ自身も、三十路すぎて覚悟ができたし。
これで良かったのかどうかなんて、わからない。
もしかしたら大失敗かもしれいないし、大正解かもしれない。
そんなこと、何で今決めなきゃいけない?
珀英と一緒にいたい、キスがしたい、傍にいたい、抱きしめたい、話し合って笑い合って泣き合って怒り合って哀しみ合って、抱かれたい。
ただそれだけ。
ただ、そう思っただけだから。
「海外・・・ですか?」
「ああ、うん。今度イギリスでのプロジェクトに参加することになったから、来週から3週間くらい行ってくる」
「3週間も?」
「そう」
取材を終えて、家に帰り、珀英の迎えられて、珀英の作った夕食を食べながら、オレは珀英に渡英の話しをしていた。
ちゃんと言っておかないと、オレがいない間もご飯を作りに来そうだったから。
今回のプロジェクトは世界各地のアーティストを集めて、一時的なバンド形式で1つのアルバムを作るものだ。
オレはギター弾きなのでもちろんギターで参加する。
今回はまずは顔合わせと、どういうアルバムにするのか打ち合わせをしに行く。
3週間も要らないと思うが、打ち合わせが長引いた時の事を考えて余分にスケジュールを押さえている。
珀英はオレの説明を聞きながら、ずっと渋い顔をしていた。
「・・・わかりました。飛行機は何日の何時ですか?荷造りしておくので、ちゃんと具体的なスケジュール教えて下さい」
「いや荷造りくらい自分でするし」
「そんな時間どこにあるんですか?ずっと忙しいでしょう」
「・・・うん・・・なあ、なんで怒ってんだ?」
テーブルに並べられた鯖の味噌煮をつつきながら、オレは珀英に訊いた。
いきなりの質問を想定していなかったのか、珀英が少し驚いた顔で、伏せていた顔をぱっと上げた。
鯖を口に含んでモゴモゴしているオレと、珀英の戸惑った視線が絡む。お互い無言でしばし見つめ合って。
珀英が全身で大きく溜息をついた。
「・・・すみません・・・ちょっと拗(す)ねただけです。怒ってはいないです」
「え?拗ねたの?何で?」
「・・・・・・・・・3週間も会えないから」
ボソボソと小さく呟く珀英。じーっと見つめていると、みるみる顔を赤く染めた。
「わかってますよ!子供じゃないんだから我慢しろってことぐらい、わかってますよ!」
耳まで赤くして、珀英はキュウリの浅漬けを口に放り込む。
オレは子供みたいに素直な珀英を見つめたまま、くすりと笑った。
「別にそんなこと思ってないよ。オレもお前に会えないの淋しいし」
「え・・・?」
「3週間も顔見れないし、声聞けないし、触れられないし、キスもできないし・・・だから、ね?」
こんな風に自分から誘うのは初めてて、すんごい恥ずかしいけど、何とか珀英に意思は伝わった。
珀英はオレが誘っていることがわかったようで、瞬時に顔つきが変わった。
「明日・・・13時から打ち合わせでしたよね?」
「・・・じゃあ10時とか11時に起きればいいかな」
本当はわかっていて、気づいていないフリをして、誘惑する。
視線を絡めたまま、ふんわりと微笑むと、珀英が再び大きな溜息をついた。
「降参です。勝てないですよ・・・貴方には、ね」
「くすくす・・・10年早い」
「貴方だったら、負けるほうが気持ちよさそうだ」
「今更」
珀英がふと、茶碗を持つオレの左手を手に取る。
そして、茶碗を取ってテーブルに置くと、ついっと引き寄せて。
オレの手の甲に。
口吻けをした。
Fin
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