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第55話
ようやくヒートも落ち着いて、裸でベッドに座っていた俺に貴一さんが冷えたペットボトルの水を手渡す。
「瑞樹。何か食べられそうか?ルームサービス頼もうか?」
下着姿で、貴一さんが真剣にメニューを見つめる。
「瑞樹の好きそうなイチゴのパンケーキがあるぞ。これにするか?」
貴一さんが枕元にある受話器を持ち上げた。
「貴一さん」
名前を呼ぶと、貴一さんが受話器を置き、ベッドの上の俺を抱きしめた。
「どうした?まだ体辛いか?」
俺は貴一さんをぎゅっと抱きしめ返しながら、早口で聞いた。
「貴一さんって俺のこと好きなの?」
体を離され、貴一さんが驚いた表情で俺の顔を覗きこむ。
「俺のこと愛してるかって聞いたの」
ずっと不安だった。
俺はオメガなのにでかくて、可愛くもない。
ヒートの時の香りも薄い。
お義母さんと比べられたら、勝てる要素は一つもないと思っていた。
でも貴一さんはヒートになったお義母さんが隣にいても俺を抱きしめてくれて、独占欲にまみれた言葉をくれた。
俺の中で希望がわずかに芽生えた。
「愛してるに決まってるだろ?愛してない相手を番にしたりなんかしない」
貴一さんの言葉に俺の目が潤む。
「だって一度もそう言ってくれたことないから」
「ごめん。別にわざと言わなかったわけじゃないんだ。当たり前のことだから、瑞樹もちゃんと俺の気持ちを分かっているって勝手に思い込んでた。ごめんな。愛してる、俺は瑞樹を愛してるよ」
ぽろぽろ涙を零す俺の額に貴一さんが口づける。
俺の泣き顔を見て困ったような顔をした。
「愛してるっていうか、その言葉だけじゃ言い表せないから使わなかったのかもしれない」
俺は貴一さんを見上げた。
「番に対する想いがこんな強いものだなんて、初めて知った。綺麗なだけの感情じゃない。
誰にも瑞樹を見せたくない。触って欲しくない。自分でもちょっと恐ろしいくらいだ」
貴一さんはそう言うと自嘲するように笑った。
貴一さんはベッドの上であぐらをかくと、俺を膝の上にのせた。
「こんな独占欲の強い俺は嫌か?」
そう聞かれて俺は首を振った。貴一さんに抱きつき、涙を零す。
「嫌じゃない」
貴一さんが首筋の辺りでふっと笑う気配がした。
「まあ、嫌と言われても今更手放せないけどな」
耳に響く貴一さんの低い声を聴いて、俺の体が震える。
その瞬間、俺の体からラベンダーに似た香りがぶわりと立ち昇った。
貴一さんが俺のうなじに鼻をつけ、深く息を吸う。
今まで、これといった特徴のない匂いだと思っていた自分の香りが、貴一さんの香りと混ざり合い、唯一の香りとなる。
「この香りが一番好きだ」
俺は貴一さんの言葉に頷くと、愛しい番の唇を自ら求めた。
happy end?
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