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第52話

「水曜日から修学旅行なので、来週まで来られません」 修学旅行前の土曜日。 夕飯を食べながら呟くと 「あ〜、カレンダーに書いてあったな」 と言いながら、和哉さんリクエストの生姜焼きをご機嫌で食べている。 「どこ行くの?京都奈良とか?」 って言うと、俺の顔を見た。 「いえ、東北です」 そう答えると 「東北?高校生の修学旅行にしては、随分と渋いな」 と言いながら、俺の生姜焼きに箸を伸ばして来たのでお皿を差し出す。 「そっか…。じゃあ、来週の飯は適当に食うわ」 そう言われて、もしかしてあの「小関さん」とやらと食事するつもりじゃないのかと考えてしまう。すると俺の考えを読んだのか、ニヤニヤしながら 「別に、お前が作り置きしくれるんだったら、僕は此処で大人しく待ってるけど」 なんて言われてしまった。 和哉さんの家に来るようになって、俺はすっかり料理の腕が上がってしまった。 自宅での日曜日のお手伝いも、手際と味の良さで、今では俺が料理担当になっている。 「適当にある物で良いですか?」 溜息混じりに呟くと、「やった〜!」と万歳して喜ぶ和哉さんの顔を見てしまうと、まぁ…良いか…って思ってしまう。 翌日、冷蔵庫にある物で何品か作った後、足りない食材を買ってカレーを作っておいた。  毎週日曜日は、土曜日から泊まっているのもあり、早めに帰宅するようにしている。 時計を見ると3時少し前。 自宅に帰って、冷蔵庫の中を見てなにを作るか考えるかな…って考えていると、突然、背中に和哉さんがのしかかって来た。 「帰るのか?」 ぽつりと聞かれて 「はい。家の夕飯の支度もあるので」 そう答えると、珍しく和哉さんが背中から離れないでいる。 「1週間なんて、あっという間ですよ」 そう呟くと、突然、和哉さんは俺から離れて 「別に!寂しいとか…そんなんじゃないから」 って、顔を真っ赤にして俯く。 そっと両頬に触れて顔を上げると 「毎日、LINEします」 と言うと、和哉さんは視線を逸らして 「要らない!うざい!」 そう答えながら俺の手に触れる。 「和哉さん」 名前を呼ぶと、おずおずと視線を俺に向けてゆっくりと瞳が閉じられる。 唇が重なり、触れるだけのキスを落として抱き締めると、背中に手が回されて、和哉さんが甘えるように俺の胸に頬を摺り寄せた。 愛しくて頭にキスを落として髪を撫でると、和哉さんは俺の顔を見上げて嬉しそうに微笑む。 こんな素直な和哉さんはレア過ぎて 「あ〜!帰りたくない!」 そう叫んだ俺に、和哉さんは驚いた顔をしてから笑い出し、その後俺の首に手を回して 「じゃあ、帰さない」 そう囁いて誘うような瞳で微笑む。 (どうしよう!帰りたくない。帰りたくないが、帰らないと怒られる) 頭でグルグル考えていると 「どうしても帰るの?」 瞳をうるうるさせて和哉さんが俺を見る。 もう…どうなっても良いか…って、和哉さんにキスをしようとすると「ぷっ」っと吹き出して 「ば〜か!嘘だよ。お前、チョロ過ぎ!」 そう言って俺の鼻を摘む。 「ほら、さっさと帰れ」 って言うと、俺から離れて鞄を押し付けた。 「連絡しなくて良いからな。折角の修学旅行なんだから、楽しんで来い。僕の事は気にしなくて良いから」 微笑んで言われて、なんだか急に不安になると 「その代わり、きりたんぽ!お土産で買って来い」 って言われて、笑顔で頷いた。 「たくさん買って来ます!」 と答えた俺に 「たくさんは要らん!」 って返すと 「じゃあ、また来週な」 そう言って和哉さんが微笑んだ。 「はい!また来週!」 次がある。 そう思うだけで嬉しくて、思わず元気に答えた俺に 「元気だねぇ〜」 って言いながら、和哉さんは笑って俺を見送ってくれた。 こんな幸せな毎日が、ずっと続くと思ってた。 和哉さんが笑ってくれるから、俺は忘れていたんだ。自分が強引に始めた関係だったって事を…。

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