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第72話

あれからアメリカに渡り、僕の生活は大槻教授のハードスケジュールで慌ただしく過ぎて行った。 海とは時差があるからLINEで定期連絡が多いものの、離れている感じがしないのが不思議だ。 そして僕のスマホの待ち受けは、あの日撮ってもらった写真の海の部分だけ。 自分の姿は恥ずかしいから、そこはカットして海の優しく僕を見る笑顔に癒されている。 自宅にしているアパートへ戻り、ベッドに突っ伏す。 LINEの海は、運動会やら文化祭やらで何やら忙しそうだけど、楽しそうなのが伝わって来る。 体育着を着た4人の写真を見ると、当たり前なんだけど 「海って、高校生なんだよな〜」 って呟きながら実感する。 今まで送られて来た画像を見て、文化祭の海のウエイター姿に口元が綻ぶ。 (あ、もちろん。写真にはお仲間が写っているけどね。やっぱり海がダントツカッコイイ) スマホの画面の海の姿に、会いたいと思う。 今まで、こんなに死ぬ程忙しい時は誰にも会いたいなんて思った事が無かったけど…。 不思議と、今は忙しければ忙しい程、海が恋しい。 「会いたいなぁ〜。海の作ったご飯、食べたいなぁ〜。」 ふと見上げたカレンダーが、12月になっていた。 日本から持参したカレンダーには、あの日、海が落書きした文字だけがそこにある。 「海の誕生日か…。帰れそうにないな〜」 ぽつりと呟き 『和哉さん』 僕を呼ぶ海の声を思い出す。 海はすぐ、僕の頬に触れる癖がある。 その時に僕を見つめる目は、いつだって愛おしそうに細められていた。 「海……大好き…。会いたいよ……」 ぽつりと呟いた時、僕のスマホが鳴り響いた。 ドキッとして慌てて画面を見ると、大槻教授からだった。 まぁ、テレビドラマみたいに、こんなタイミングで海から連絡が来る訳が無いと苦笑いした。 「Hello」 電話に出た僕は、奇跡って起こるんだってそう思った。

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