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第十三章・4

「ね、寿士さん。前に『瑠衣は俺のものだ』って言ったよね」  瑠衣は、自分が高校時代の先輩・山岡と浮気をした時のことを思い出していた。  その時寿士は、金の力で山岡を瑠衣から引きはがし、その後まるで仕置きのように瑠衣の身体を貪ったのだ。 『瑠衣は、俺のものだから。俺だけのものだから』 「そんなこと、よく覚えてるな」 「覚えてるよ、しっかりと」  僕は、寿士さんのもの。  だったら……。 「だったら、寿士さんは誰のものなの?」 「そ、それは」  珍しく口ごもる、寿士だ。 (俺は、瑠衣のものだよ)  そう言って、抱きしめられたらどんなにいいか。 「俺は、俺自身のもの。誰かのもの、だなんて束縛されたくはないから」 「やっぱり、そっか」  瑠衣は、人差し指にはめられた指輪を、じっと見た。  黙ってそれを外し、中指に着けなおした。

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