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「華々しく、毒④-コウと恭一③ the third man」
「コウと恭一③ the third man -第三の男- 」
わかりやすく機嫌の悪い恭一が連れてきたのは、恭一と同じ顔の男だった。
「俺の双子の弟の、いつき。」
「こんちわ。」
この顔が世の中に二人いるのか、こんな美形が二人もいる世界線に俺は生きてるのか、もうそれだけで死んでもいい、かな。
五木はとてもフレンドリーなやつで、「はじめまして、お義兄さん。お義兄さんでいいの?よろしく」と俺の右手を握りしめた。
五木は終始へらへらしていたけど、恭一は不機嫌なままだった。
家族に会いたい、という何気ない一言が始まりだった。後輩とか何でもいいから、コウさんの家族に紹介してほしい、と恭一が目をキラキラさせて言うから、俺は「うん」と言ったのだが、俺の家族はもうこの世にはいないから、かわいそうだけど、それは、その願いは叶えてやれない。
恭一にそういったら、恭一はちょっとバツが悪そうに下を向いた。もうずいぶんと昔の話だし、俺は別に何とも思ってないけど。沈黙があって、恭一は、「俺の家族に会いますか、会いましょう」と言った。
「俺の家族に会ってください、連れてきますから」と言って、連れてきたのが、五木だ。
「親父もオカンも、都合合わんくて、俺しかおらへんかって。」と流暢な関西弁で五木は話した。恭一って関西の人間だったのか、知らなかった。双子の弟が居ることも。
五木は恭一と違って、性格明るいし、会話も上手だし、友達が多くて毎日楽しいよ、みたいな奴だった。
なぜか、恭一は不機嫌なままだった。
「コウさん、ってキョウの彼氏さんなんや。見てたらね、俺わかるんよ。俺ね、同じやから。コウさんと同じ。」
俺が美形の関西弁をうっとりして聞いてたら、
「でも、キョウ、ちゃうやん。キョウは、女の子ダイスキやん。」と、俺の手を握った。遺伝子とかDNAとかの脅威なのか、五木の、恭一と同じ目で見られると、俺の鼓動が早まるのが分かった。
恭一は、俺と俺の手を握る五木を見て立ちすくんでいた。五木はそんな恭一をちらっと見て、少しにやっと笑った。
「こいつ面白くないやろ。顔だけなんやもんな。ヤるぐらいしか能がないくせに、大してうまくもない、って、コウさん、もう知ってるか。」
なんか言えよ、黙って聞いとくのかよ、と恭一の顔を見たとき、彼が下を向いて目にいっぱい涙を溜めてるのを見て、心臓が高鳴るような締め付けられるような感情が俺を支配する。そう、こういうとこだよ、俺が、こいつに、ぐしゃぐしゃに苦しくなるのは、と思ったとき、ほとんど反射的に俺は立ち上がって、恭一の頭を抱きしめて髪をくしゃくしゃにして、
「ああ、もうかわいいなぁ、俺ね、こいつに、ぞっこん、なんだよ。ああ、言い方古いか。」
五木は少し驚いて俺と恭一の顔を交互に見て、なんていうのかな、ちょっと不貞腐れたように
「愛されてるんやねぇ。キョウ、良かったなぁ。」と言って、胸ポケットからハイライト一本取り出して、100円ライターで火をつけた。伏し目がちに火をつけるとこなんか、昭和の映画スターみたいでカッコいい。
でも、俺は見てたよ、その時の五木の横顔。あれ、キライなやつのこと考えるときの顔じゃないよな。あれっ、五木、こいつ、と気付いた点はある、でも、それは言わない。
五木はそのあと、恭一の昔話を一人で話し続けて、俺、寄るとこあんねん、と勝手に帰っていった。かき乱して帰った感じだ。
五木が帰って、しばらく呆然としていた恭一が、一つ長い溜息をついて話し出した。
「五木とは、子供の時は仲良かったんだけど、中学の2年とか3年とか、その辺から、急に俺に怒り出して、なんかしたのかなぁって。」
「最初の彼女で来たぐらい?」
「うん?うん、そうかなぁ。でも、五木は彼女ができたこと、特に何も言わなかったし。五木はもともと友達多いから、毎日楽しくやってたみたいなんだけどな。」
ああ、なんとなくわかる、勝手に嫉妬して、勝手に怒ってたんだよな。五木は純情なんだよな。
「コウさん、さっきの、さっきの、ゾッコン、はまだ期限切れてない?」
「うん?」
と俺の返答を待たずに、俺はフローリングの床に思い切り押し倒された。いてぇと思って目をあけたら目の前に恭一がいて、目がいつもと違うから、大体何が言いたいのか、何がしたいのかはわかるけど、ここ板張りなんだが、こんなことに押し倒して、なんで、そう、勢いだけなんだよ、と思った。
「コウさん、もうここでやってしまおう。忘れないうちに、確かめておこう。その方がいい、時間空いたら、またくだらないこと考えて、前に進めなくなる。愛にも賞味期限とか消費期限があるんだよ、さっさと食っちゃうことも、意味があんだよ。」
なんでそんなに、なんか、くどいの、と思ったけど、一理あると思うし、ここは流されてもいいかと思って、手を伸ばして恭一の左頬を右手でそっと触れ、腹筋使って頭持ち上げて、彼の口唇に最初のキスを一つした。
恭一が、にぃっと笑ったので、俺も急になんか軽くなって、
「五木みたいに、俺に好きって言って。」と言ってみた。恭一は、真顔になって、少しだけ眉間にしわを寄せて、瞬きを2、3回して
「好きやで」と言ったから、俺は、恭一の舌に俺の舌を絡ませて、深く深く、息をしづらいようなキスをしてやった。
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