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「華々しく、毒⑤-ゼンジと怜佑②-luck of you-」

「君が足りない -Lack of you-」  ゼンジが束縛体質であることには相当驚いた。出かけるときはいつ、どこで、誰と会って何時に帰るのか、きちんと伝えておかないといけない、二人の生活にはそんなルールが存在する。  ゼンジときちんと気持ちを伝えあって、お互いを認めて、それから僕たちは自分が一人ではなくて、常にお互いの半身を身に纏うような生活になった。  ゼンジは今までの放蕩ぶりが嘘みたいに大人しくなって、バイトの時以外はきちんと帰ってきて二人で晩御飯を食べるようになった。家事も率先してやってくれるし、彼なりに二人の生活を大事にしようとしてくれていることはよくわかる。  それなりに平和に暮らしていた僕とゼンジなわけだが、育ての親である祖父母のもとに、1年以上帰ってなかったゼンジは帰省することになった。  僕は、ゼンジの帰省の準備をして、お土産を持たせて、「いってらっしゃい」と送り出した。  久しぶりに一人になった感じがして、大きく深呼吸した。愛されることには、十分に満たされている、そう感じているのだけど、でも、ちょっと息苦しく思うことがあったことは否めない。  部屋の掃除をして、ボサノヴァのレコードかけて、ふと思った、今、僕は、最初の一年は一人で生活してたのが嘘みたいなそんな毎日を送っている。奇跡じゃなくて、それは現実のことなんだ、と。  そして、夕方になって日が暮れて、夜が広がった空を見て、ゼンジがいない一日がこれほど空虚なものとは知らなかった自分に気が付いた。食欲もない、何もできない。  足りない、何か足りない、と焦燥感を感じたとき、玄関の鍵の開く音がした。  ゼンジ、帰りは明日だよね、と玄関に走った。ゼンジが息を切らしてそこにいた。僕を見て笑って、カバン放り投げて、靴をぞんざいに脱ぎ棄て、僕に抱き着いてきた。 「ただいま。会えなくて、死ぬかと思った。」 彼は両手で僕の両頬に触れて、 「待ってた?俺のこと、待ってた?」と言った。 僕は、ゼンジ不足の一日から、急展開の、帰らないはずのゼンジの供給過多に少し戸惑った。 「ゼンジ、明日か明後日に帰るって言ってたよね。」 「元気だったからもういい。それより腹減った。なんかある。」 と言って、キッチンの方へ向かった。 「ごめん食欲なくて、晩御飯、作ってない。」 ゼンジはくるりと僕の方を向いて、 「やっぱり俺いないとダメダメだな。」と言って僕の頭をクシャクシャってして、 「外、食いに行く?それとも軽くなんか作ろうか。」と言った。  ゼンジ、作るって言っても、レタスちぎるかトマト切るぐらいしかできないじゃないか、と思ったけど、僕は彼の帰宅が嬉しくて、本当に嬉しくて。  僕はこのまま彼と離れたくなくて、できれば彼にずっとくっついて今日一日のゼンジを充電したい気持ちで、後ろから彼の腰のあたりに手を回して、背中に自分の頭をくっつけて、「家にいる」と言った。  ゼンジは、僕の手に彼の手を重ねて「今日はずっと一緒にいような」と言った。  きっと、これからこんな風に、いろんなこと考える、そして、ゼンジに対するいろんな想いを再確認したり、そんな毎日がきっと僕の普通になる。  君の手と僕の手を重ね、君の口唇と僕の口唇を重ね、君への思いと僕への思いを重ね、君の時間と僕の時間を重ね、そんな、君に満たされた愛ある生活。

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