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「青空、俺と付き合ってくれないか」  それは、後から思えばちょっと軽い気持ちもあったかもしれない。しかしその時は、それなりに真剣に想いを伝えた。  振られる覚悟はあった。それでも、自分の容姿や性格を高く評価してくれる周りの影響で、それなりに自信もあった。絶対とは言えないが、もしかしたら可能性はありそうだと。  ところが、神澤の口から飛び出した台詞は予想の斜め上を行った。 「でも、京には他に一番好きな人がいるんだろ?俺なんかに余所見している場合じゃないって」  一世一代の告白をしたつもりが、全く予期していなかった変化球で返されて、一瞬呆けてしまった。  それがナルシストで有名で、ちょっと恋愛事に疎そうに見える神澤の言葉だと思えずに、驚きからしばらく抜け出せずにいた。そんな京を見て、神澤は逆に驚いた顔をする。 「え、違った?おかしいなぁ。絶対にそうだと思ったんだけど」  告白をなかったことにしたいわけではなく、本気でそう思って首を傾げている神澤を見て、京はするりと口にしていた。 「当たり。よく分かったな」 「やっぱり」  神澤の笑顔を見て、こいつの評価を見誤っていたなと苦笑する。そして、それであっさり会話は終了し、それ以上神澤は深く聞いてこなかったのだが、もしかして敢えてそうしたのではないかと思う。 「あ、俺、今日は急用あるから先に帰るわ。じゃあな」 「ああ」  慌ただしく出て行く神澤に手を振り、誰もいなくなった放課後の教室で、とても楽しいばかりではなく、寧ろ苦しいばかりだった、恋と呼べるほど綺麗ではない記憶を紐解いていく。     

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