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終焉 ⑦★
イったばかりの井上の中は気持ち良かった。温かく、優しく包まれているような感覚がした。少し井上が動くだけで大きな快感が井上に押し寄せているようだった。再び井上が喘ぎ出す。
「あっ……んっ……」
井上が、感じる度にぐっと両脚に力を入れた。すると井上の中もぐっと締められて桜井に快感が訪れる。桜井の快感が頂点に届きそうになる手前でふっと緩くなる。その繰り返し。
「おい……なんで緩めんの」
「勝手になるんだって」
「嘘つけ。わざとやってんだろ? 焦らしてるだろ?」
「ふふっ……リベンジな」
イタズラっ子のような顔で井上が笑った。
「ちょっと、そろそろイかしてよ。この状態、地獄だわ」
「分かった分かった。俺がイかしてやるから」
そう逞しい言葉を吐いて、井上が最後の力を振り絞るかのように腰を必死で動かした。井上の上げる声も大きくなる
「はあっ、あっ、あんっ、あっ」
あ、イく。
そう思った瞬間に、井上の中へと勢いよく欲が放たれたのを感じた。一気に快感が体中に押し寄せる。
でもそれは。同時に、井上との関係の終わりを示していた。
ふうっ、と息を吐いた。徐々に快感が遠のいていく。繋がりはそのままに井上と目を合わせた。見つめ合ったまま、お互い何も言わなかった。桜井を見下ろす井上は無表情だった。わざとそうしているのだと分かった。そこから井上の感情を読み取ることができない。
今、こいつは何を考えているのだろう。
「……終わっちゃったな」
沈黙に耐えられず桜井が口を開いた。しかし、井上はそれには答えなかった。ただじっと桜井を見つめ続けた。
桜井自身も、もう交わす言葉が思いつかなかった。井上を抱き終えたら。井上と一緒にいることは必要ではなかった。いや、必要でないものにしなくてはいけなかった。
井上から視線を逸らす。井上と繋がりを断とうと腰を引こうとした次の瞬間。強い力で井上が桜井の腰を両手で掴んだ。ぐっと抑えられて、腰を引くことができない。
「……て」
掠れた声で井上が何か呟いた。
「え?」
井上の顔を再び見上げた。見た途端、なんとも言えない強い感情が凄い勢いで膨れ上がってきた。
泣きそうな顔で、泣きそうな笑顔で、井上はもう一度呟いた。
「ずっと……繋がってて」
「…………」
こいつは悪魔だ。
太陽のような笑顔で笑う悪魔だ。
無垢な天使のフリをして。何も知らないフリをして。一瞬だけ。桜井が抗えないタイミングで。
悪魔に変わって囁くんだ。
そして自分は。
そんな悪魔にとっくの昔に囚われて、溺れた、堕落者なんだ。
だからもう分かっていたことだった。自分は。こいつから離れることはできない。
そっと右手を伸ばして、井上の頬に触れた。井上が目を静かに閉じた。目尻から涙が一筋流れ落ちる。
顔を井上へと近づけた。井上の唇の感触を感じるころには、彼女のことも、自分の偽ってきた気持ちも、もうどうでもよくなっていた。
【完】
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