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おまけ・その後の初詣の話(直矢視点) (完)
地元にある他県の人にも名が知られている有名な神社は、正月は屋台もいたるところにずらりと並んでいてとても混む。車で行って駐車場を探すのに何十分、遠い駐車場しか空いてないからそこから歩いて数十分、さらに参拝するのに何十分もかかるのは当たり前だ。
だから中学生くらいからだったか。ここ数年は親たちと有名神社への初詣には行くのは止めて、正月はいつもサンタと2人で、家から徒歩数分の、屋台もおみくじもない小さな神社へ行くようにしていた。
(でも今年はさすがに、2人ではないかな…)
クリスマスにハッキリと告ってから、サンタはオレへどう接すればいいのか悩んでるようだったからそう思っていたのに。
なのにサンタはいつも通りオレを初詣に誘った。
ペコ、ペコ、パン、パン、ペコっ
(…長い願い事してんなー)
オレは一瞬で参拝を終わらせてしまったのに、チラリと横を向くと、サンタはまだ合わせた手に力を入れて揺らしながら、ぎゅっと目を閉じている。
(何をそんなに願ってんだかなぁ…)
オレが叶えられることだったらいくらでも叶えてやんのに。
そんな風に思っていると、ようやくサンタは目を開いて一礼した。
「…お前長すぎね?よくばって何個も願い事してたろ。1個にしとけよー」
「してねーよ!ちゃんと1個だし!お前が早すぎんだよ、短すぎー。」
そう言いながら、サンタは寒さで冷えた手を暖めるようにこすり合わせながら、はぁっと息を吐いて歩き出した。
「えー。だってオレの願いはクリスマスと同じだし。いつも一瞬で願える。」
オレの願いは、“サンタ、くれ”。
たった5文字。されど5文字。
もう何年も、クリスマスや初詣…ガキの頃は七夕の短冊や流れ星や四つ葉のクローバーさえ、願いは全て、それなのだ。
…どう考えても重すぎるから、サンタには絶対言えないが。
でもたった5文字のそれは、何度願っても、何年願っても、1度も叶うことはなかった。
チラリと隣に視線だけ向けると、さすがに鈍いサンタでもオレが何を願ったのか理解したのだろう。
露骨に視線を彷徨わせてから、口元を手で覆い隠した。
(まぁでも、サンタがようやくオレのこと意識してくれたし。全然叶わないけど、去年よりは1歩前進してんのかな…)
ふぅっと白い息を吐き出すと、サンタがこちらにじっと目を向けて、口を開いた。
「直矢、もしかして参拝の時願いごとだけ言ってない?参拝っつーのはな、ちゃんと自分の住所言って、名前言って、お礼言って、そんで願い事すんだぞ」
(残念、話を流された)
そう思いながらも「住所?名前?何それ、言ったことないけど。冗談だろ?」と返すと
「いや、マジだし!なんならググってみろよ」
そう言われその場でググってみると、本当に冗談ではなくマジだった。
「マジか…オレ願いしか言ったことねーよ。だからお前あんな長かったのか」
「そうだよ!どこの誰が何を願ったか分かんないと、神様だって叶えられねーんだよ」
サンタが自慢気にそう言うので、オレは歩いていた足を止めた。
「…じゃあ戻る。もう1回住所と名前言って、お参りしてくる」
「え、もっかい?」
「だって、そしたら叶うんだろ?」
オレの言葉にサンタは墓穴を掘ったことに気づいたのか、はっと息を止めて固まった。
「……え、いや…」
「……」
「……」
「……」
「…それは次のクリスマスプレゼントでいいんじゃなかったっけ?」
そう言って、サンタは顔を真っ赤にさせた。
「…そっか。クリスマスに叶うなら、今日はもういっか」
「……おう。早く帰ろーぜ、さみぃ」
さく、さく、と砂利を歩く足音が響く。
オレの視線から逃れるように下を向いて歩くサンタは、寒いだけの理由じゃないだろう。耳まで絵に描いたように真っ赤だ。
(…今のは、クリスマスまで待てば付き合ってくれるってことでいいんだよな?)
しかしクリスマスプレゼントと言われた手前、今あんまり聞き返すワケにもいかない。
願っても願っても、叶わなかった願い。
あんまりにも叶わないから神様なんていないと思いつつ、それでも藁にもすがる気持ちでずっと願ってきた願い。
今年はようやく、叶うのだろうか。
クリスマスまでは、ほぼ1年ある。
それまでサンタの今の気持ちが変わらないように…いや、もっといい方向に変わるように、頑張るしかない。
(今年はいい年になるといいな…)
今年のクリスマスが終わって、来年の初詣になっても。またサンタの隣に当たり前のようにいられるように。
ふっと笑って顔をあげると、空は雲一つない綺麗な青空で。
太陽は眩しく2人の歩く道を照らしていた。
終 2019.12.23
(素敵な1年になりますように!)
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