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抱いて ちゃんと 抱いて 2
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クリスマスのライブが無事に終わり、もうすぐ大晦日という12月29日。
珀英は年内の仕事を全部終えて、身軽になった状態で、緋音の家を訪れていた。
緋音はクリスマスライブを終わらせ、来年のために取材やら撮影やら、打ち合わせやらの仕事をこなしている。
当然家にはあまりいない。なので、珀英は致し方なく、大掃除やらなんやらやりに、緋音の家で奮闘していた。
夕方になって、そろそろ帰ってくるはずの緋音のために、珀英は吐く息が白くなるほどの寒さと、重く垂れ込めた雲に覆われた天気の中、近くのスーパーに出かけ、夕飯の買い物をしていた。
年末年始特有の寒さが日本列島を席巻(せっけん)している今日。
雪が降りそうだと天気予報で言っていたので、珀英は身体(からだ)の温まるお鍋にしようと考えていた。
野菜コーナーで白菜やしめじを見ていると、珀英のスマホが震えた。緋音からのLINEが入っていた。
『今から帰る。お鍋がいい』
簡潔なそのメッセージに珀英は思わず、ふんわりと笑顔になる。
『オレもお鍋にしようと思ってました。鶏肉でいいですか?』
『つみれがいい』
『わかりました』
また面倒くさい事を言うな、と思いつつ珀英は小ネギを手にして、鶏肉コーナーへ向かう。
緋音が帰ってくる時間を考えるとあまりのんびりもしていられないので、テキパキと買い物を終えて帰路(きろ)につく。
帰宅すると、お鍋の昆布出汁(だし)を取りつつ、食材の下準備を進める。
つみれ用の鶏ひき肉と小ネギを刻んでボウルで混ぜていると、玄関のチャイムが鳴った。
珀英は手を洗うと浮き足立って玄関へと向かった。緋音は自分の家だし、当然鍵も持っているけど、珀英がいる時は絶対にチャイムを鳴らす。
珀英がドアを開けないと、入ってこない。
珀英はドアを開けて、緋音の姿を認識すると、
「おかえりなさい」
「ただいま」
寒そうに首をすぼめながら、嬉しそうに微笑んでいる緋音が、可愛くて愛おしくて堪(たま)らない。
緋音の首にしっかりと巻かれているのは、珀英が昨年のクリスマスプレゼントであげた、カシミアのグレーのマフラーだった。
今日は緋音はジーパンに黒いロングコートを羽織り、頭が寒いのか黒いソフトハットを被っている。
真っ白な肌はきめ細かやで、真紅の口唇を一層際立たせて、艶やかで。触れてはいけないと思わせる。
珀英がそんな風に自分を見ているなんて思ってもいない緋音は玄関に入ると、履いていたブーツを脱ぐ。見惚れていた珀英は我に返ると、鍵を閉めてチェーンをかけると、お鍋の準備をするためキッチンへと戻った。
手洗いうがいを済ませて、コートなどを脱いで、ジーパンに黒のロングセーター姿で緋音がリビングに入ると、珀英が卓上コンロにお鍋を乗せているところだった。
お箸や小皿が並ぶ食卓に並んでいるのを横目に、緋音は冷蔵庫へと近づき、中にある冷えた缶ビールを取り出した。
「お前も飲む?」
「飲みます」
「はいはい・・・あれ?ごまだれは?」
「もう出してありますよ」
テーブルを見やるとたしかに置いてあった。
ずっと同じ味だと飽きてしまうので、緋音は、お鍋はぽん酢とごまだれがないと食べられない人だった。
自宅なら問題ないが、外食だと別の味にすることが難しいので、なるべく外でお鍋は食べないようにしている。
まあ、あとは、珀英が作る飯が美味いから・・・外食しようと思わないってのもあるけど・・・。
緋音はビアグラスを二つ取り、テーブルに乗せるとビールを注ぐ。
綺麗な泡が立ち、琥珀(こはく)色の液体がグラスを満たす。
夕食の準備が整ったので、緋音の向かいの椅子に座る。
いつもの二人の定位置。
どちらからともなくグラスを取って、
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
グラスを合わせる。軽いキンッとした音を立てて、乾杯するとそのままビールを口に含む。
キンキンに冷えたビールは、真冬の暖かい部屋の中で飲んでも、抜群に美味しい。
そして煮えたお鍋を二人でつつく。緋音が味変したり、ビールが焼酎になったりして、半分以上お鍋を食べたところで、二人ともほろ酔い気分になっていた。
「緋音さん・・・今日泊まってもいい?」
「え?・・・好きにすれば」
「ありがとうございます」
珀英の突然の申し出に、緋音は瞬時に意味を理解して、恥ずかしさで顔を伏せる。
つっけんどんな返答に、珀英は嬉しそうに微笑む。
明日の午前中は、緋音に予定が入っていないので、珀英は自分のスケジュールを調整してわざわざ空けたのだ。
二人は雑炊まできちんと食べて、珀英は食器類を洗い、緋音はお腹いっぱいのためソファでゴロゴロしていた。
その時、背中に違和感を感じる。緋音は不審(ふしん)に思いながら、その異物を背中から外す。
緋音の手に握られていたのは、珀英のスマホだった。
なんだ、あいつこんな所に置きっぱかよ。
体を起こしてスマホをテーブルに置こうとした時、手の中でスマホが震えた。LINEを受信したようで、通知が画面に表示される。
見るつもりはないのに、嫌でも目に飛び込んできた。
『今から会える?』
そんなメッセージと、瞳子という名前。
緋音は思わず首を傾(かし)げる。
「誰?」
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