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抱いて ちゃんと 抱いて 4

* いよいよ明日大晦日という、12月30日。 今日は一年の締めくくりとして、事務所で納会があり、もちろんオレは仕事も予定も入れずに参加していた。 スタッフの人達が宅配のお寿司やら、揚げ物やサラダや、飲み物の準備をしてくれて、来れた人達でささやかな乾杯をした。 各々(おのおの)好きに飲んで食べて、冗談を言ったり、真剣に話しをしていたり。 年の瀬を急に実感する。年末ライブもやったから、年末ってわかってるのに、妙にしみじみしてしまう。 一年が終わるんだな・・・・来年も頑張らなきゃ。 宴会が始まってから2時間ほどたち、そろそろここは片付けて二次会でお店にでも行こうという空気感の中。 オレは中心から離れたところのソファに座って、二次会どうしようかと考えていたら、隣にうちのギタリストの雪(ゆき)が座った。 オレとツインギターを担当していくれている雪は、プレイスタイルも外見も、性格も全部がオレとは正反対だった。 「お疲れ様」 少年のようなあどけない笑顔をする。オレと同い歳のくせに、妙に童顔で無邪気に見えるので、ぱっと見20代前半に見える。 整った顔立ちをしていて、清楚な大人しそうな雰囲気を纏(まと)っている。オレが洋風なら、雪は和風だ。 真っ黒な髪を伸ばしていて、腰の辺りまであり、手入れをかかしていない綺麗な真っ直ぐな髪を、今は一つにまとめて結わいている。 今日はラフな格好をしていて、ジーパンにモスグリーンのタートルネックのトレーナー、黒のロングの薄手のカーディガンを羽織っていた。 まあオレも仕事があるわけじゃないから、似たような格好してるけど。 雪は無邪気な笑顔を浮かべながら、手にした缶ビールをそっとオレに近づける。オレは飲み途中の赤ワインのグラスとそっと重ねる。 「お疲れ様、やっと休めるな」 「ひーちゃんはお正月の予定は?」 「んー・・・」 ワインを口に含みながら言葉を濁(にご)した。 正月・・・か。 年末年始は珀英がウチに泊まりに来るのがここ数年の恒例行事だった。 紅白歌合戦みたり、セックスしたり、初詣行ったり、セックスしたり、酒飲んだり、セックスしたり・・・って、セックスばっかしてんな! 思わず思い出してしまい、頬が少し熱くなる。 雪はオレに構わず喋(しゃべ)り続ける。少年のような声色で、鈴を転がすように喋る。 「オレは正月は旅行に行くんだー。寒いから南の暖かいところに!帰ってきたら、実家にでも顔出そうかな」 「あ・・・ああ・・・。実家か・・・オレも帰ってないから、久しぶりに帰ろうかな」 「あれ?珍しいね?」 雪がきょとんとした風に小首を傾(かし)げた。 オレは同じくらいきょとんとしてしまう。 「何が?」 「だって、いつも珀英くんと一緒にいるじゃん。だから珍しいなって」 「え?!いや?!・・・そんな珍しいって・・・」 「喧嘩でもした?」 いきなり核心を突かれる。 雪はいつもそうだ。 ニコニコして、可愛い笑顔の下で、何考えてるのやら。 こうして何も知らないわかんないって顔して、楚々(そそ)としてみせて、腹黒くて底が見えない。 こいつが一番、何考えてるかわからねぇし、正直怖い。 オレはワインを呷(あお)ると、空になったグラスを見ながら雪を睨みつけた。 雪は楽しそうに、ニコニコと微笑んだままだ。 「別に。喧嘩なんかしてないし、いつも一緒にいるわけでもない」 「ふーん・・・」 オレの表情から何かを読み取るように、雪がじっと見つめてくる。 真っ黒で大きな瞳に、何もかも見透かされていそうで、非常に居心地が悪い。 「そんな事よりお前二次会どうすんの?」 思いっきり露骨に話しをそらすと、 「んー・・・ひーちゃんも行くでしょ?」 「まあ・・・行くけど・・・じゃあ行くって言ってくる」 話しを蒸し返されないように、そそくさと席を立つ。 そのオレの背中に雪の本当に楽しそうな、楽しそうな声がかけられる。 「早く仲直りしなねー」 余計なお世話だっつーの!

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