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第3話

あの一件があってから、何となく教室に居づらくて。休み時間は、人気の無い場所に避難する様にしていた。 相変わらず塚原は、僕を見掛けては『理央ちゃん』と揶揄ってきたけれど……余り気にしないようにした。 相手にとって、面白い反応をすればする程、エスカレートしていくものだから。 ……でも…… 「……」 また…… もう、これで何度目だろう。 下駄箱の中に、あるはずの靴が無い。 他のクラスや違う学年の下駄箱まで一通り見て回ったものの、やはり無かった。 仕方なく、上靴で帰る。踵に『神木理央』と名前が書かれていて、恥ずかしいけれど。 「……靴なら多分、体育館の下駄箱の中だと思うよ」 公園のベンチに並んで座る凪が、上靴の在り処を僕に教えてくれる。 「ごめん。塚原のやってる事は、到底許されるものではないけど……根は、悪い奴じゃないんだ」 「……」 それは……凪から見たら、そうなのかもしれない。幼馴染みだし、塚原の色んな面も深い所も知っているんだろうから。 でも僕は、塚原の嫌な一面しか知らない。 凪がそうだったように、もしかしたら塚原にも、僕には見えていない良い所が沢山あるのかもしれない。 ……でも、だからって。塚原がしてくる僕への嫌がらせを、聖母のように許す事なんてできない。 「……そういえば、凪」 「ん……?」 「前から気になってたんだけど、ソレ」 落とした視線の先。 凪の鞄にぶら下がる、可愛いクラゲのキーホルダー。 ほんのりピンクがかった、半透明でゼリー状に見えるそれは、触れたらきっと、ぷにぷにと柔らかくて気持ちいい感触なんだろう。 「……ああ、これ?」 「うん」 「僕には似合わないとか?」 揶揄するような口調。僕に流し目をしながら、口の両端を綺麗に持ち上げる。 「えっと……そうじゃなくて。クラゲ、好きなのかなって」 「──うん。好きだよ」 凪が、僕の顔をじっと見ながら答える。 その仕草や視線に、ドキッと胸が高鳴った。 「理央は……?」 「……え」 「好き?」 クラゲの事を聞かれてる筈なのに。 何故か緊張して、胸のドキドキが止まらない。 恥ずかしさに堪えきれず、凪から視線を外し、こくんと頷く。 「………うん」 「じゃあ今度、一緒にクラゲを見に行こうよ」 凪の優しげな声が、耳元で囁かれる。 ビクッと肩を震わせた僕を見て、凪が嬉しそうに、柔らかく微笑んだ。 学校では、クールなのに。 外で会って僕と話す凪は、驚くほど表情が豊かで。優しくて。 そのギャップに、ドキドキが止まらない。 ……どうしちゃったんだろう、僕。

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