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ただ、逢いたい
その日から、俺の生活は変わった。
大学とバイト以外の時間はすべて晶を捜すために使って、手がかりなど何もないからとにかく手当たり次第オフィスに飛び込んで受付に聞き回った。
本当は1日中それに使いたかったんだけど
『大学とバイトはサボるなよ』が晶の口癖だったから。
友人にも事情を説明して協力してもらった。
最初はみんな信じなかったけど、俺が女全部切ったことや走り回って晶を捜していることを知ってマジだってわかってくれたらしい
それぞれ情報を集めてくれたんだけどーーー
晶は見つからないまま、1ヶ月が過ぎた。
「疲れた……」
バフッとベッドに倒れ込み額に手をやる
今日も大学、オフィス回り、バイトとフルコースだった。
もうかなりのビルに飛び込んだけれど、まったく手応えはなし
有力な情報もなし
ここまで見つからないと、嫌な考えばかりが頭を巡る
俺が捜していることを知った晶が、受付に口止めしてるんじゃないかとか。
そもそも、駅前じゃなかったらとか。
もうこの街には居ないのかも……とか。
「どうしたらいいの……」
広い広い部屋に響く声
また、胸が痛む
そのうち慣れるかも……なんて思っていた、晶が居ない時間
全然駄目だった
いつまでたっても
ツラくて、寂しくて、恋しくて
そっと左側に手をやって冷たい布団を撫でる
いつだって手を伸ばせば、そこには晶が居て
触れる肌の温もりや
楽しそうな笑い声や
真っ直ぐな愛の言葉
いつだって、与えてくれた。
それは俺が手放さない限り、永遠にあるものだと思っていたんだ。
「晶……」
逢いたいよ
逢って
名前を呼んで
この腕に抱き締めたら、もう二度と離さないから
ずっとずっと、大切にするから
「ねぇ、頼むよ……っ」
神様
もう一度だけ
俺にチャンスを、ちょうだい
〜〜♪♪〜〜〜♪♪〜〜
静かな部屋に、突如鳴り響いた着信音
「はい」
目をつむったまま携帯を耳に当てれば、聞こえてきた声は大学の友人で。
『おっ、蓮!ちょっ、メモしろ!』
なんか少しテンションが高めで聞き取りにくい
「なに、酔ってんの?」
嘆息混じりに返したら、一瞬黙って息を整える気配がした。
そして
『晶さんの職場がわかった』
ーーー言葉が、出なかった。
とりあえず起き上がってはみたけれど、どうしたらいいかもわからない
『おい?聞いてるか?』
「…………っ」
『蓮?』
「……ど、こ……?」
かろうじて紡ぎ出した掠れ声
額を押さえた手が小刻みに震えているけれど、それに苦笑する余裕さえない
職場ーーー
そこに行けば逢える
晶に、逢える
メモを取る時間さえ惜しくて、とにかくその場所を頭に叩き込んだ。
それは駅前から少し外れた場所にある大きなビルで、知ってはいたけれどまだ探す予定の無かった場所だ
思いがけない吉報に頭はグチャグチャ
とにかく走り出そうとした俺を電話の声が止める
言われるまま時計を見やれば深夜の12時を回っていた。
晶はよく残業をしていたから、もしかしたらまだ居るかもしれない
でも確証は無いし、こんな時間にビル前でウロついていたら警備に目を付けられるだろう
俺を見て逃げられないためには待ち伏せではなく受付に取り次いでもらうのが1番だと思うからーーー明日、行くべきだ
それはわかっている、けれど
「くそ……っ!」
切った携帯を握り締めて思わず舌打ち
今すぐ逢いたいのに
どうしようもなく、逢いたいのに。
とにかく布団に潜り込んで必死に眠ろうとしたけれど、どうしようもなくて。
明日、晶に逢えるかもしれない
そう思ったら、急激に上がる体温と速まる鼓動に息が苦しい
ついこの間まで、飽きるほど毎日会っていたのに……
あざ笑うようにゆっくり進む時間
浮かんでは消えていく晶の顔に
眠ることなんか、できなくて。
俺はただ、布団の中で震える手を握り締めていた。
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